CTAB/NaSal系界面活性剤のひも状ミセル水溶液について,マイクロ流路内で高いずり速度とひずみ速度を受けることによって誘起されるミセル高次構造体の形成過程と流れ場の変化の詳細を調べる実験を行った.ミセル高次構造体を形成した流体塊は明視野観察では確認できないが,屈折率の局所的な変化を明暗のコントラストをつけて観察できる位相差顕微鏡によって,その挙動を捉えることに成功した.新たに試みた円柱群を複数の区画に区切って配置した流路を用いた実験では,区画ごとのひずみ蓄積量による変化を観察した.ひずみ蓄積量が大きくなる下流の区画ほどミセル高次構造体が発現しやすく,流量を増加させると,より上流の区画でも発現するようになった.このことは,高次構造体の形成に,ひも状ミセルの回転緩和時間とずり速度が関係するという説明を支持するものである.一方,ある送液流量を超えると,壁面ですべりが生じ始めるためか,流量を増加させてもミセル高次構造体を最初に発現する区画に変化が見られなくなった.このことは,送液流量をあげても予想より低いずり速度しか得られず,ミセル高次構造体が可逆的なものにとどまった原因と考えられる.比較的高い流量では円柱群の隙間に流れ込むときに脈動が見られ,定常な流れから非定常な流れに変化する要因の一つとなっている.円柱群の隙間に相当する急縮小部をもつマイクロ流路を用いて,新たに円偏光クロスニコル観察を試みた.一定流量以上で急縮小部入口に弾けるような脈動流れが発生し,急縮小部に流れ込む筋状の流れの領域で,ミセルの配向の生成と消失が繰り返し起きていた.脈動の頻度は,はじめ流量とともに増加してその後一定となったが,流路幅が関係する.なお,位相差顕微鏡で捉えられたミセル高次構造体を形成している流体塊の複屈折は大きくなく,クロスニコル観察や偏光イメージングカメラでは捉えられないことが確認できている.
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