研究課題/領域番号 |
23560193
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
渡邉 崇 名古屋大学, 情報科学研究科, 教授 (40182927)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 旋回流 / 分岐現象 / 遷移ダイナミクス / 回転円板 / 回転円柱 / 自由表面 / 計算流体力学 / 実験流体力学 |
研究概要 |
本研究の目的は,円筒容器内で回転する,軸方向,半径方向に隙間を持つ回転円板周りの流動現象の解明と,自由表面を持つ,鉛直回転二重円柱間の流れの不安定性機構のメカニズムの探求にある.円筒容器内の回転円板の流れ関し,流動現象の観察が容易な装置を新たに設計,構築した.そして,画像処理用エリアセンサを用いて,流動状態の観測を行い,これまでに報告されている流れの再現を実現するとともに,本研究独自の幾何的流動条件である,半径方向の隙間の影響が,明確に表れることを,PIV測定の結果も交えて確認した.また,この流れの数値シミュレーションにおいては,回転円板軸方向に非対称な流れが現れることを明らかにし,その流れの不安定化現象を明確にした.その結果,これまでに求められている流れの形態に加えて,新たな不安定現象を加えた流動場の形成過程を,流れの遷移過程の見地から整理することができ,具体的な分岐線図を与えることができた.鉛直に設置された回転二重円柱間の流れについても,新たに大型(外円柱半径600mm)の装置を作成し,流動現象,特に,円柱上部の自由表面における流れの様子を測定した.円柱の回転数が増大するにつれて,当初,表面の波は,半径方向外向きの進行波として現れるが,次第に外円柱壁面と干渉し,反射波が生成されるようになる.さらに円柱の回転数が増すと,外円柱に沿った,盛り上がったリング状の波が発生するようになる.このリング状の波は,円柱間の波とは異なった進行速度を持つことを見出した.これらの現象は,大型の実験装置を導入して,初めて測定されたものである.現在は,表面波動の詳細な形状を測定するために,複数台の超音波センサの最適配置の検討,および,エリアセンサを使っての測定を行っている.また,この現象を,三次元的にシミュレートする数値的なソフトウェアのチューニング進めている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
円筒容器内で回転し,半径方向と軸方向に隙間を持つ回転円板周りの流れでは,新しい装置が順調に稼働し,流動現象も,明確に観測,測定できるようになった.また,エリアセンサも,軸方向と半径方向の両方向から,同期をとって観測できるようになった.その結果,多方面からの流れを,主にPIVを用いて測定することにより,流れの三次元的構造の解明も可能となった.一方,この流れの数値シミュレーションにおいては,これまでには報告されていない,軸方向非対称で,かつ,不安定な流れを得ている.この流れは,時間的に変化する場合があり,この場合には,一種の遷移ダイナミクスの様相を呈する.そして,これまでに見出された数値予測の結果と合わせて,回転円板周りの流れの形態について,円板の回転角速度による分岐ダイアグラムを,具体的に示すことができた.また,この分岐ダイアグラムは,円板の厚さ,つまり,軸方向隙間の距離により,大きく変化することも見出された.自由表面を持つ鉛直回転二重円柱間の流れにおいても,流動装置は完成した.そして,多彩な表面波が現れることが明らかとなった.これは,本研究のような,大型の装置を用いることで示されたことである.また,円柱内部の流動状態を観測するために,適切な可視化粒子の割合を決定するとともに,エリアセンサを用いて流れの様子をとらえることができた.また,超音波センサの信号をパソコンで取り込むことにより,実際の波高をリアルタイムで計測できることを確認した.課題としては,複数台の超音波センサの配置の問題があり,これは,流れ形態に応じて決定する予定である.一方で,流れの数値予測においては,外側円柱周りにおける,盛り上がったリング状の波はシミュレートされている.しかし,内部の波との干渉までは,十分に予測されておらず,これが課題となっている.
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今後の研究の推進方策 |
円筒容器内で,半径方向,軸方向に隙間を持つ回転円板周りの流れでは,数値的に予測された流動形態と,実験的に測定された流動形態の比較が,本研究の一つの目的ある.実験的測定では,外乱などの影響により,数値シミュレーションのような,明瞭な結果が出ない場合がある.このため,まず,エリアセンサから実験的に観測された結果を,画像処理の手法を用いて,三次元的に,より明確に測定することを目指す.この画像解析には,申請者が,別研究として行っているOpenCVを用いた自作プログラムと,Matlabで提供されているライブラリの利用を想定している.その上で,数値シミュレーションにおいては,実験より得られたデータを,境界条件として用いることにより,計算と実験のフィードバック体制をねらう.また,数値シミュレーションにおいて,静止状態から一定の角速度まで上昇するための,初期の円板の回転加速度を,実験におけるものと合わせることにより,計算予測の精度向上を目指す.鉛直回転二重円柱の実験も,流動場を作る装置は,順調に仕上がっている.今後は,波の変動を測定する複数の超音波センサの配置の検討を行う.また,流れを三次元的に観測するために,円柱内部の流動状態を観測するためのエリアセンサの設置法を考える.さらに,可視化のための最良の照明法を確立する.そして,自由表面における二次元的な波動の形成状態の測定,および,内部流れの正確な測定をはかる.ここで,内部流れの測定には,PIVの活用,あるいは,上記の回転円板まわりの流れの解析における画像処理ソフトの導入進めていく.数値シミュレーションにおいては,波形状の曲率がもたらす表面張力効果と,重力の効果を取り入れた上で,汎用の流体解析ソフトの導入も考慮して,数値粘性拡散が小さい,精度の良いコードの開発を目指す.
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次年度の研究費の使用計画 |
回転二重円柱の実験において,現在用いている光源では,流れ場断面の可視化のためのスリット光を作ると,十分な光量が得られておらず,内部の流れの測定に支障をきたしている.一方で,円筒容器内で回転する円板周りの流れの測定には,強力な光量を持つキセノン照明装置を使って,流れの測定を行っており,流動状態を,流れの一つの断面で,明瞭にとらえることができる.しかし,この照明装置は重量があり,簡単に移設できるものではなく,他の実験と併用することはできない.このため,回転二重円柱を可視化するための光源として,キセノン光の他に,近年脚光を浴びているLED光などを検討し,回転二重円柱間断面の流れの可視化に適切な光源を選定する.この光源の購入に,次年度への繰越金,及び,次年度の研究費を合わせた研究費をあてる.また,回転装置の精度維持のために,回転軸受,プーリの購入に,次年度の研究費を用いる.流れを可視化するためには,適切な可視化用微小粒子を流体に混ぜる必要がある.つまり,直径が均一で,流れに影響を及ぼさず,かつ,密度が作動流体と等しい粒子である.この微小粒子の購入に,次年度の研究費をあてる.回転容器内で,軸方向,半径方向に隙間を持つ回転円板まわりの流れ,および,鉛直回転二重円柱間流れの自由表面挙動の不安定性に関する研究は,申請者が独自に提案した研究対象である.隙間を持つ回転円板まわりの流れは,流体機械を簡素化したモデルであり,この挙動の解明は,流体機械の運低制御に有用である.また,鉛直回転二重円柱の流れは,現実的なフィルター装置や化学反応装置などのみならず,流れの非線形性を解明するために重要な研究である.これをうけて,機械系の分野や,力学系の分野において,これらの研究結果の発表に伴う,論文掲載料,学会講演会参加費用に,次年度の研究費を利用する.
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