研究課題/領域番号 |
23560203
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
加藤 健司 大阪市立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10177438)
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研究分担者 |
脇本 辰郎 大阪市立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (10254385)
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キーワード | 表面・界面物性 / 接触角 / 動的ぬれ / 毛細管 / マイクロマシン |
研究概要 |
液体中から垂直平板を引き抜く際の固気液3相の接触線の挙動について,Front-tracking法を用いた数値シミュレーションを行った.壁面上に周囲よりぬれやすい円形 (直径100μm)の領域(欠陥)を設定し,接触線の変形や局所接触角の変化を調べた.気液界面の変形仕事ならびに粘性消散仕事量と動的接触角の関係を整理する理論式の提案を行い,それぞれの動的ぬれ挙動への影響について検討した.従来考察されていない前者の効果は,動的接触角に無視できない影響を及ぼすことを明らかにした.また,2つの円形欠陥が存在する場合について,欠陥間の距離を変化させて数値シミュレーションを行った.2つの欠陥はある距離まで一つの大きな欠陥のように振る舞い,接触線の移動速度(平板の移動速度)ごとに,上記2つの仕事量が最大となる欠陥間距離のあることを示した.この効果により,接触線の移動速度に対する動的接触角の変化は直線的でなく,上に凸の分布を示す.これは,実際に観察される動的接触角の振る舞いをよく近似している. 分子レベルで平滑なSAMs(自己組織化単分子膜)を施した試料表面に対し,Gaイオンビームを照射してSAMsを局所的にはぎ取り,直径300μmの欠陥をもつ試料平板を作成した.欠陥部の後退接触角は63.15°で,元のSAMs表面での81.12°よりもぬれやすい.接触線が欠陥部を通過する際の局所接触角の変化を,レーザースポットの反射光の変位を利用して測定を行う手法を提案した.接触線近傍の液体表面上にレーザーを照射し,接触線がレーザースポットを通過する瞬間の接触角を求める.欠陥上の様々な位置にスポットを設定することにより,接触角の時間変化が測定できる.欠陥部を通過する際,動的接触角が有意に変化し,接触線が欠陥にトラップされていること,ならびに通過後にSAMS基板の接触角に回復する過程を明らかにすることができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の主要な目的である,欠陥部を通過する接触線の動的ぬれ挙動について,局所の接触角の時間変化を測定する手法の開発を行った.この装置による測定の結果,欠陥部に接触線がトラップされて接触角が大きく減少し,その後基板の値に回復する過程を明らかにすることができた.これら一連の挙動は,実際に観察される接触線の定性的な挙動をよく説明することができる.数値シミュレーションにおいては,壁面に適切な境界条件を設定することにより,欠陥部を通過する接触線の変形挙動ならびに動的接触角の値を求めることができた.理論的に求めたエネルギー平衡条件から,気液界面の変形仕事の動的接触角への影響を明らかにすることができた.また,実際の現象を想定して,複数の欠陥を配した壁面上でのぬれ挙動のシミュレーションを行い,欠陥同士の相乗効果を示すことができた.これらの結果は,従来明らかにされていない動的ぬれ挙動のメカニズムの説明に新たな知見を与えるものであり,本研究は当初の目的に沿っておおむね順調に進展しているものといえる.
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今後の研究の推進方策 |
壁面に存在する円形欠陥を通過する接触線の挙動について,数値シミュレーションならびに実験の両面からさらに検討を進める.実験では,壁面に人工的に施した円形欠陥部を通過する接触線の変形挙動ならびに局所接触角の変化を精密に測定する.前者については,ハイスピードビデオカメラにより接触線の挙動を観察し,気液界面の変形面積ならびにそれに伴う仕事量を具体的に評価する.この変形挙動と同期して,接触線が欠陥を通過する際の局所接触角の変化を,前年度に開発した装置を利用してレーザービームの反射から測定を行う.これらの結果から,壁面に存在する欠陥の動的ぬれ挙動への影響を定量的に明らかにする.また,壁面に複数個の欠陥が存在する場合を対象についても同様の測定を行い,それぞれの欠陥の相乗効果が,変形挙動や動的接触角の値に及ぼす影響を実験的に検討する. 数値シミュレーションにおいては,接触線近傍の応力発散を避けるために導入した壁面スリップ条件について検討を行う.従来の研究報告から,接触角の値の増加に対して,スリップ長さも同時に増加する傾向のあることが指摘されている.欠陥部と基板部分のスリップ長さの差を考慮すること,ならびに欠陥部の接触角ならびに配置や数を様々に変化させて気液界面の変形仕事量や粘性摩擦の効果について考察を行い,実際の動的接触角の変化を再現できる数値モデルの構築を行う.このモデルに基づき,上述の実験結果が再現できることを示す. 毛細内の液柱の挙動を対象として,接触線が非定常な速度変化,すなわち加速度が無視できない場合の動的接触角の値の測定を行う.従来扱われていない,同一速度下でも加速度によって接触角が変化する可能性について,実験的に検討を行う.
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次年度の研究費の使用計画 |
上記今後の研究の推進方策に則り,主に実験に用いる備品購入・消耗品費および試料加工費,ならびに数値計算に用いるPC等に研究費を使用する予定である.
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