製紙業界では、地球温暖化防止に関するCOP15の消費エネルギー削減目標によって、約束の2020年に向けてさらに脱水設備の小型化と省エネルギーが強く求められている。また、東日本大震災による電力消費の大幅削減の要請とも相まって、業界ではこれまでの0.5~0.8%の低濃度パルプ液から、高濃度パルプ液中でも繊維分散が可能となる抄紙機ヘッドボックスについての技術開発と、それに関わる学術的研究が一層急務となっている。そこで、本研究では報告者がこれまでに開発したパルプ繊維濃度評価技術や流れ中の繊維挙動に関する成果を発展させ、ヘッドボックス内急拡大部における流れ特性およびパルプ繊維挙動を解明して、そのフローメカニズムを用いた繊維分散の制御を図るものである。 平成25年度(最終年度)では、前年度に行ったパルプ繊維濃度が1%を超す比較的高濃度のパルプ液を用いたパルプ繊維濃度測定の結果も参照して、濃度むらを評価した。その結果、以下のような知見が得られた。 (i)流れ軸上の濃度変動は流路の拡大比によって異なり、拡大比β≦2では拡大部流入直後やや増大した後減少し、おおよそ圧力回復距離の下流位置に向けて徐々に増大して発達した値に近づく。(ii)拡大比が大きいβ=3の場合、流れ軸に沿って濃度変動は減少し下流部での発達した値に近づく。(iii)各軸上の時間平均濃度Ctaの分布から算出されるパルプ繊維濃度の不均一度(濃度むら)αは、上流で水環が最も厚くなる流れパターン(中程度の流速)の場合、急拡大面では非常に高い値を示すが、いずれの拡大比においても上流管の流路高さd1の約6d1下流で最小値を示す。以降では、濃度むらは次第に大きくなるが、高濃度のパルプ液ほどその上昇の度合いは高い。(iv)前述の知見から、抄紙機ヘッドボックスとして急拡大流路部の下流に取り付ける絞り流路の位置は、10 d1辺りが適切と思われる。
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