研究課題/領域番号 |
23560221
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
多田 幸生 金沢大学, 機械工学系, 准教授 (20179708)
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研究分担者 |
瀧本 昭 金沢大学, 機械工学系, 教授 (20019780)
大西 元 金沢大学, 機械工学系, 助教 (80334762)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 凍結 / 超音波振動 / 過冷却 / 氷晶形成 / 食品 |
研究概要 |
コールドチェーンの発達に伴って食品を安全かつ美味しく凍結保存する技術の確立が求められている.凍結保存は原理的には,低温化と活性水分の低減により生化学反応の抑制を図るものであるが,凍結の過程で細胞レベルのミクロ現象が生じ,これが各種の凍結損傷に繋がる.したがって,食品の品質を劣化させない効果的な凍結技術の開発が課題となる.本研究では,超音波振動を利用した凍結過程における氷晶形成の能動的制御を追究する.すなわち,超音波の付与によるミクロな振動および超音波キャビテーションを利用して,細胞内外の氷結晶の微細化と氷核生成数の増進を図り,それによる高品質な凍結を実現する冷却技術の開発を目標とする. 本年度は,模擬食品として純水ならびに生理食塩水溶液を供試し,超音波振動の付与による過冷却促進実験を行い,過冷却度に及ぼす超音波振動の効果を操作条件と関連づけて実験的に検討した.また,超音波振動が水の過冷却に及ぼす影響を理論的に検討する基礎として,TIP6P水分子モデルを用いた氷晶成長の分子動力学シュミレーションモデルを構築し,その妥当性を検証した.これらの項目を実施した結果,本年度は以下の成果を得た.(1)1MHzの超音波振動を振幅一定で付与すると,超音波出力の増加につれて過冷却の解除効果が現れ,過冷却の促進効果は認められなかった.(2)振幅を周期的に変化させる振幅変調超音波振動を付与すると,振幅変調周波数が20から25kHz付近で弱い過冷却の促進効果が見られた.(3)過冷却の促進効果は超音波出力の増加に対して極大値を示し,超音波強度が強すぎると過冷却効果は減少することが明らかになった.(4)分子動力学モデルを用いた数値計算により,水分子間の水素結合状態および氷核の成長挙動を分子レベルで捉えることが可能となった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画した (1)実験装置の製作,(2)超音波振動を付与した水の凍結実験,(3)氷の結晶成長の分子動力学シミュレーションモデルの構築は予定どおり実施された.その結果,振幅変調超音波振動を付与すると弱い過冷却の促進効果が見られたことは望ましい結果である.しかし,超音波出力の増加に対して極大値を示す傾向が現れたことから大幅な過冷却促進が難しいことが予想される.このため,操作条件を変えた実験の継続と,新たな効果を併用した協同効果の発現などの可能性についても検討を進める必要があると考えられる.また,氷核成長の分子動力学シミュレーションについては,純水を対象とした計算が可能となり,水分子の水素結合ネットワークの形成や水分子の取り込みによる氷晶成長挙動の把握が可能となった.これにより,次年度以降に予定している超音波振動等の外力を受けている水分子の凍結挙動を解析するための基礎が得られた.以上のことから,本研究はおおむね予定どおりに進展していると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は今年度の結果をもとに,水溶液の過冷却促進を実現するための操作条件を実験的に追究するとともに,そのメカニズムを理論的に追究する.具体的には,(1)今年度の実験において弱い過冷却促進効果が見られた振幅変調超音波振動に注目し,超音波出力および周波数を様々に変化させた実験を行い,氷核の生成・成長の阻止に効果的な操作条件を探索する.(2)超音波振動と変動磁場を併用した過冷却促進実験を行い,その効果を検証する.(3)氷核形成の分子動力学シミュレーションモデルを水溶液系に拡張し,その有効性を確認する.また,そのモデルを用いて様々な種類の外力を受けた水分子の凍結挙動について解析を進める. 以上の検討結果をもとに,最終年度となる平成25年度は,魚肉および馬鈴薯を供試した超音波照射下での食品の凍結実験を行い,本手法の有効性を検証するともに,そのメカニズムを理論的に追究する予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度経費のうち,14,400円の繰り越しが生じたのは,物品請求の手続きの遅れが原因である.繰り越し額は少額であり,平成24年度の研究費使用計画の大枠は当初の予定通りとなる.具体的には,分子動力学計算用のコンピュータ,低温恒温水槽などの設備備品に70万円,セラミック製圧電素子,熱電対,高純度蒸留水,装置改良ための材料費などの消耗品費に40万円,成果発表および資料収集のための国内旅費(富山,長崎,熊本,東京,各1回)に20万円の支出を予定している.
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