研究課題/領域番号 |
23560225
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
服部 博文 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 技術職員 (30467352)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 逆勾配拡散現象 / 乱流熱伝達 / 成層乱流 / はく離,再付着乱流 / 直接数値シミュレーション |
研究概要 |
本研究は,逆勾配拡散現象が特に顕著に出現すると予測される温度安定成層や剥離・再付着を伴う乱流中において,その発生条件とメカニズムを,直接数値シミュレーション(Direct Numerical Simulation,以下DNSと記す)を用いた乱流素過程を探索することにより,逆勾配拡散現象を調査,解明することにある.平成23年度は,安定成層乱流境界層と剥離・再付着を伴う乱流境界層熱伝達場,また新たな試みとして壁面の熱的境界条件が変化する乱流熱伝達場のDNSを行い,逆勾配拡散現象の発生がシミュレートできることを確認すると共に,現象発生限界についての考察を行った.まず安定成層乱流境界層では,支配無次元数のレイノルズ数とリチャードソン数を変化させ,逆勾配拡散現象の発生限界がレイノルズ数の大きさに係わらずリチャードソン数が大きい場合であることを発見した.リチャードソン数はレイノルズ数とグラスホフ数の複合無次元数で,発生原因とされる浮力の効果を考慮するとグラスホフ数が適切な無次元数と考えられるが,本研究では上述のようにリチャードソン数の方が現象の発生限界を示す無次元数としてより適切ではないかと推察できたことは今後の研究の進展に対して大きな意義を持つと考えられる.剥離・再付着を伴う乱流については2次元ブロック乱流のDNSを行い,速度場と温度場に逆勾配拡散現象が発生していることを発見した.これまでの前方ステップ乱流と同様の結果を得たことは,様々な剥離・再付着を伴う乱流熱伝達場で逆勾配拡散現象が発生しうる可能性を示し,発生限界についてもレイノルズ数が低い場合に顕著に発生することを突き止めた.また新たに壁面の熱的境界条件が変化する乱流熱伝達場のDNSを行い,この乱流熱伝達場でも逆勾配拡散現象の発生が発見され,今後の研究の発展に寄与できると考える.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で対象としている乱流熱伝達場における逆勾配拡散現象について,これまでの実験的研究ではその発生が確認されているが,その発生がシミュレーションで再現できることが理論上確定していない.このことこそが本研究の本質であるが,理論とこれまでの知見を熟考し,現在まで行った乱流熱伝達場のシミュレーションにおいて,逆勾配拡散現象が再現できていることは研究が順調に進展していることと考えられる.また,研究の発展として新たにシミュレーションを行った壁面の熱的境界条件が変化する乱流熱伝達場においても逆勾配拡散現象が発見され,研究の目的以上の成果が期待されるため,おおむね順調に進展しているとした.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策は,逆勾配拡散現象の発生条件やメカニズムを明確にすること,また乱流モデルの予測評価を行い,現象が予測可能かどうかを探ることに重点を置く.まず発生条件に関して,安定成層乱流境界層では23年度に見いだした知見の再評価を行い,結論となるかを再検討する.剥離・再付着を伴う,もしくは壁面の熱的境界条件が変化する乱流熱伝達場については,現象の発生条件に起因する乱流諸量を同定する研究に重点を置く.乱流モデルについて,本研究で算出された乱流熱伝達DNSデータを用いて,既存のRANSモデルとLESモデルの評価を行う.評価方法は,乱流熱伝達DNSデータを直接モデルに代入して評価するアプリオリ法と,評価モデルを用いてDNSと同条件の乱流熱伝達場を計算するデータ検証法の2通りを採用する.これらにより,絶対的な乱流熱伝達モデルの予測精度が明確になる.また,乱流熱伝達場の支配方程式と乱流熱伝達モデルがリンクする場合の総合的な予測精度が明確となり,現象予測数値モデルの構築の指針を得ることができる.モデル評価で既存モデルの欠点が見いだされたら,DNSの解析から得られた知見を基に,逆勾配拡散現象が再現できる現象予測数理モデルを再構築する.このモデルを組み込んだRANS-LESハイブリッドモデル(もしくはDESモデル)の再構築も視野に入れる.以上の研究が順調に推移させ,逆勾配拡散現象の発生臨界無次元数やパラメーターが決定されれば,乱流熱伝達現象の制御に応用出来ると考えられる.この臨界無次元数やパラ-メーターを基とした外力を定義し,それをDNSの支配方程式へ組み込むことにより陽的に逆勾配拡散現象の発生が制御できるかを試みる.
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度に使用する研究費が生じた状況は,当初予定していた調達物品(計算機サーバー)が予想以上の価格低下を招いたのが直接の原因であるが,性能をアップして予算を使い切るという方策を採らなかったためである.それは,研究の進展が順調に進み,研究成果を国際会議で発表する機会が増加すると見込めたため,次年度に研究費を繰り越し,旅費に充てることとした.この繰り越し研究費を含んだ次年度の使用計画としては,当初見込んでいた計算量が新たな現象解明場の設定により増加しているため,物品費に計算機サーバーを計上する.しかし,経費節約のために自作による計算機サーバーを構築する.また,上述のように研究成果を国際会議で発表する機会が増加するため,国内旅費と併せて旅費への割当てを多くした.そして,国際的な学術雑誌への投稿のために,英文校閲費を計上した.
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