本研究では、構造物の境界からの反射波を吸収する波動吸収制御法の実現が、薄肉構造物の場合特に難しいという問題に対し、薄い圧電フィルムの利用によって実現させることを目的とした。制御対象モデルとして、柔軟回転アームなどにも適用可能な片持ばりをとりあげ、平成23年度はまず、適切に形状を設計された圧電フィルムセンサとアクチュエータがその表面に貼付されて一体化されたスマート片持ばりを作製し、センサおよびアクチュエータの形状は、長方形状および三角形状として、これらの基本特性の測定を実施し、自由振動制御実験を試みた。センサに混入する電磁ノイズが制御効果およびシステムの安定性に大きく影響し、波動吸収制御の実現には至らなかった。また並行して、理論解析モデルの構築と、数値解析の実施により、圧電フィルムを貼付したはりの自由振動応答を評価した。平成24年度は、はりの周波数応答を数値解析によって求め、長方形状フィルムと三角形状フィルムの組合せにより、複数の振動モードに跨る広い周波数範囲で制御効果が期待できることを確認した。次いで、実際に積層化された圧電フィルムセンサおよびアクチュエータの貼付された片持ばりを用いて制御実験を実施、はりの基礎部に強制調和変位励振入力が加わる場合について、はり先端変位振幅で制御効果を評価した結果、1次振動モードを中心とする低周波数ほど理論解析結果に相当する効果が得られた。平成25年度は、さらなる制御効果の向上および回転アームへの適用について検討した。コントローラをディジタル信号処理で組み直して高精度化し、さらにはりの相対変位応答を基礎と先端の2点の高分解のセンサで正確に評価した。その結果、低周波側では波動吸収に近い状態が実現できることが確認され、また、回転アームに適用した場合には、回転に伴う慣性力が本圧電素子制御系では準静的観測信号となって対応困難であることを確認した。
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