研究課題/領域番号 |
23560287
|
研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
橋口 原 静岡大学, 電子工学研究所, 教授 (70314903)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | エレクトレット / 静電型アクチュエータ / MEMS |
研究概要 |
本研究はシリコンの深堀りエッチングで形成するような、狭く深い高アスペクト構造のエッチング側面に半永久帯電を有するエレクトレット膜を形成する技術を開発することにある。そのために、シリコン酸化膜を水蒸気雰囲気で形成する際にアルカリイオンを導入し、高濃度のアルカリイオン含有シリコン酸化膜をエレクトレット膜として機能させるアイデアを提案した。研究開始前の予備実験として、シリコン基板表面で10V程度の表面電位が観測できていたが、今年度は具体的に櫛歯アクチュエータに対してエレクトレット膜を形成する実験と、その特性の評価を行った。その結果、現時点では200Vを超える帯電を正確に測定することができた。この測定法は、櫛歯同士の相対変位と印加電圧の関係を測定するもので、通常は電圧軸零を最小点とした2次関数特性を示すが、エレクトレット化した素子はその原点が帯電電圧に移動することが分かった。つまり印加電圧零で既に相対変位が生じており、電位を印加するとまず櫛歯同士が反発するように離れていき、帯電電圧を超えると再び引き合うような挙動を示す。また単位面積当たりの帯電電荷量は、櫛歯間の短絡電流と櫛歯間の相対速度の間の比例係数から正確に求まり、レーザードップラー振動計を使って測定したところ、1.12mC/m2の値が得られていた(帯電電圧100Vの素子において)。この値は一般的なエレクトレット膜に匹敵し、すでに帯電量は実用の領域まで達成できている。さらに10μFのコンデンサに対してボイスコイルで励振することによって充電できることが確認できており、今年度の目標は全てクリアされた。このように研究は想定以上の成果をもって順調に進んでいる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度の目標としては櫛歯振動子による発電の確認と素子構造での帯電電圧の予測を上げていた。実績の概要で述べたように、これらは全て実証が完了した。また、研究開始前に10Vしか帯電電圧を確認できていなかったが、現在では200Vを超える帯電電圧が得られた。またこの帯電電圧を制御することもできるようになっており、さらに高電圧の帯電も可能と見ている。これはポアソン方程式を数値的に解いて予測されており、現在のアルカリイオン導入量(CV測定により測定している)からすると500Vは超えられるとみている。さらに次年度以降の課題、すなわち帯電の長期安定性と発電素子の最適化に対する指針も得られており、次年度の課題に対する研究を既にスタートさせている。
|
今後の研究の推進方策 |
当初の計画に沿って2つの課題に対して研究を行う。一つはアルカリイオンの長期固定化手法の開発である。今年度は40V帯電させた素子が1ヶ月後に35Vまで帯電電圧が低下したことを論文として報告した。そのため帯電電圧の低下を抑えることが実用に対して最大の課題となる。アイデアとしては2つあり、一つは酸化膜を多層にして間にイオン不透過化膜を形成するものと、もう一つはイオンの電気力線がシリコン側に向かないように、空乏層の厚み以下にシリコンを薄く酸化してしまうというものである。これらのアイデアに沿って実験をしていく。もう一つの課題は振動発電素子の最適化である。今年度作製した櫛歯振動子はトータルの櫛歯間容量が0.5pFと極めて小さいものであった。この素子で約10nWの発電電力が得られてた。今年度は帯電電圧を大きくできる振動子構造において、櫛歯間容量の大きな素子を作製し発電実験を実施する。そしてまずは計画書に記載した1μW(1G)の発電を実証する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
上記の研究推進方策に従えば、次年度は素子の作製に対して研究費を多く利用することになる。そのため、素子形成のためのフォトリソマスク、材料、プロセスガス、薬品が主な研究費の用途である。また膜の形成などでは、他機関の装置を借りることになるので、東北大学のコインランドリを想定した出張費、経費などに研究費を使うことになる。また素子の測定に関しては、真空プローバー内への素子加熱用ヒーターの導入と高電圧帯電を実証するための高電圧電源の購入などを予定している。
|