本研究は、アルカリイオンを積極的に導入した酸化膜によるエレクトレット膜の開発、及びそれを用いた振動発電を実証することを主たる目的としている。そのためアルカリイオン混入シリコン酸化膜による発電素子の実証と、各種製造パラメータによる特性の違いの把握、アルカリイオンの長期固定手法の開発を実施した。まずエレクトレット膜の帯電電圧を制御するために、帯電過程をその場観察する手法を開発し、所望の帯電電圧を与えることに成功した。これは製品化する際に極めて重要な要素であり、注入電荷を制御する一般的なエレクトレット膜製造方法と大きく異なる点である。この手法を用いて2ミクロンのギャップを有する櫛歯型アクチュエータに最大380Vの帯電膜を形成できることを示した。この帯電膜を用いて、櫛歯電極を有するカンチレバー型振動発電素子を形成し、外部からボイスコイルで励震して発電実験を行った。その結果発行ダイオードを点滅させることを示し、実効値で0.42μWの発電を確認することができた。また発電素子のモデリングを行い、1mW級の発電素子を作成するための指針を得ることができた。また本エレクトレット方法は、一つのMEMSデバイス内に異なった電圧を制御して帯電することができる。この特性を用いて、静電トランスを実証するとともに、エレクトレットならではの双安定アクチュエータ、線形駆動アクチュエータなどを開発し特許申請を行った。アルカリイオンエレクトレット膜の長期信頼性を調べるために高温加速試験を行い、真空中では-1dB低下の寿命として3万年以上を確認した。さらに表面を保護膜で保護することで、大気中に150℃で保持しても、帯電電圧の劣化が生じないことが確認できた。これによりエレクトレット膜の信頼性がされ、実用的な技術として有用であることが判明した。
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