今年度は、前年度までに実施した電流分布解析結果と、YBCOテープ線で構成されるパンケーキコイルを用いた電流分布実験結果の比較により、偏流現象の原因および大電流容量化への設計指針について検討した。具体的には、まず、各コイル・各テープ線の電流分布を精度良く測定するために、複数のロゴスキーコイルを用いた電流分布評価装置を構築し、高精度測定が可能となるロゴスキーコイル形状や配置方法について検討した。次に、1本のYBCOテープ線で構成される3個のパンケーキコイルを並列接続したユニットを3ユニット直列接続したものと、3本のYBCOテープ線で構成されるパンケーキコイルを3個転位し、直列接続したものを用いて、正弦波交流電流通電時の電流分布測定を行った。その結果、理論的には両コイルとも各テープ線の電流が同じになるものの、1本のテープ線で構成されるコイルを並列接続した場合には10%程度の偏流が、3本のテープ線で構成されるコイルを転位し直列接続した場合には40%以上の偏流がそれぞれ観測された。この原因の一つにコイル間の接続抵抗の影響が考えられるが、本質的には、複数のテープ線を束ねる場合、テープ線間の距離が小さいことから、製作誤差に伴うテープ線間の鎖交磁束のわずかな違いがインダクタンスのアンバランスに大きく影響するためであると考えられる。また、トロイダルコイルに鉄心を挿入することにより、偏流現象が緩和される傾向があることが確認された。しかし、鉄心の設置位置により電流分布が変化し、鉄心挿入効果の詳細を明確にするには至らなかった。以上の成果より、解析コードの妥当性を確認するとともに、イットリウム系テープ線を用いた大電流容量を有するトロイダルコイルを設計する場合には、製作誤算による偏流現象をより効果的に抑制するために、単線で作製したパンケーキコイルを並列接続する方法が有効であることを明らかにした。
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