研究課題
磁気トンネル接合(MTJ)を利用した不揮発性デバイスは消費電力を低減可能なことから注目されている。スピン注入磁化反転型のCoFeB/MgO垂直磁気異方性MTJは接合サイズの縮小により書込み電流が低減でき、消費電力の低減が可能であることを我々は確認している。記録保持性能を左右する熱安定性はCoFeB/MgO単界面の MTJにおいて、ニュークリエーション領域に相当する40nm以上の接合サイズでほぼ40の一定値を示す。しかしながら、20~30nmスケールの微細な素子プロセスでは、レジスト流れ・レジスト倒れによる素子不良が顕著にみられ、再現性も悪いために、20~30nmスケールでの熱安定性の挙動は明確になっていない。このプロセス構築に至っていない一要因として、基板とレジストとの濡れ性(親水性・疎水性)が考えられ、このデータを蓄積しプロセスに反映することで素子歩留まりの向上が期待できる。その結果、20~30nmスケールでのMTJの評価が可能となり、熱安定性の知見を蓄積することで強磁性電極材料開発が加速される。前年(H24)度は、30nm以下のレジストパターンを形成する際のHMDS(密着性向上塗布剤)での処理方法について検討し、レジスト流れ・倒れの改善が可能であることを示した。また、レジストの基板との濡れ性の関連性を検討するために新規に接触角計を導入した。さらに、MTJ構造の最適化のためにMgO/CoFeB上部記録層構造の磁気異方性を調べ、磁気異方性がB組成に依存することを示した。H24年度は、レジスト流れの基板との濡れ性の関連性について接触角計を用い検討した。また、MTJ構造の最適化のためにCoFeB/MgO下部参照層構造の磁気異方性を調べた。さらに、30nm以下のMTJ素子を作製し評価した。
2: おおむね順調に進展している
30 nm以下のレジストパターンを電子線描画により形成する際のHMDS雰囲気でレジストを基板にスピンコーターを用い塗布する方法とHMDSをスピンコーターで基板に塗布しその後レジストを塗布する方法とでは、後者の方が微細なレジストパターンにおいて流れ・倒れが抑制されることが分かっている。そこで、接触角計を用い前述の2つの方法のHMDS処理を行った基板においてレジストを滴下し、基板上のレジスト形状から接触角を評価した。その結果、2つのHMDSの処理方法において、レジストの接触角に違いが見られ、レジスト流れと基板の濡れ性に関連性があることがわかった。30 nm以下のCoFeB/MgO MTJを形成し特性評価をする前に、その MTJの最適化を図るために前年(H24)度の上部記録層構造に引続き、下部参照層構造の磁気特性について調べた。その結果、飽和磁化と界面磁気異方性エネルギー は下部参照層構造の方が小さくなっている。一方、実効磁気異方性エネルギー密度は上部記録層構造と下部参照層構造ともに同様のCoFeB組成で最大になる。このように記録層と参照層の最適化を行った後に、改善したHMDS処理を用いMTJ素子を作製した。MTJの接合部のレジスト現像後のSEM観察の結果20~30nmのレジストパターンが形成されていることを確認した。MTJプロセス完了後に25nmの素子については、抵抗x接合面積積RAの値から見積もった素子サイズとも矛盾しない。作製した素子において、R-H特性を測定したところ、参照層と記録層ともにCoFeB単層を使用しているために、参照層と記録層の熱安定性に大きな違いが無く、詳細なTMR特性評価にはいたらなかった。このように、最終年度に掲げていた目標である微細なMTJでの磁気的・電気的特性評価まで達成でき、さらに、参照層の熱安定性向上のための材料・素子構造の検討に着手した。
H25年度はこれまでに蓄積したMTJ材料・素子・プロセス技術の知見を活用し、MTJを作製し,磁気的・電気的特性の評価を行う。そして、その評価結果を基に微細なMTJの材料開発の基盤を構築し、材料設計指針の抽出と知財化を図る。
研究費は、20~30nmスケールのレジストパターンを形成するためのレジストや薬品の購入、材料・プロセス技術の情報収集のための学会参加費に使用することを予定している。
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IEEE Transactions on Magnetics
巻: 46巻 ページ: 3829-3832
10.1109/TMAG.2012.2203588
SPIN
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