研究課題/領域番号 |
23560359
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
吉田 正裕 東京大学, 物性研究所, 研究員 (30292759)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 結晶工学 / 表面・界面物性 / 半導体材料 / 量子井戸 / 量子細線 |
研究概要 |
平成23年度はGaAs基板へき開により形成されるへき開(110)面上へのMBE結晶成長とそれに続く成長中断in-situアニール法による表面平坦化を試みた。特に、成長中断アニール後に形成される特徴的な表面形状が(110)面上の結晶方位とどう関連するか、また、そこに現れる異方的なステップエッジの形成ダイナミクスの解明に焦点を絞って遂行した。 今回、へき開面上へのMBE結晶成長を基板回転しないで行うことで、所望の結晶方位へ意図的に成長膜厚の空間分布を導入した。これによる成長中断アニール表面での異方的ステップエッジの形成を試みた。試料の表面モフォロジー観察にはAFM顕微鏡を用いた。なお、今回の試料はプリンストン大学ファイファー博士に作製していただいた。 GaAs(110)表面では直交する2つの結晶軸方位[001]と[1-10]に原子配列の異方性があり、この違いを反映した異方的なステップエッジ形成を確認した。また、[001]方位において、導入する膜厚傾斜方向を反転させると、ステップエッジ形状が変化する様子も観測された。この結果は、成長中断アニール時の表面平坦化には、表面原子マイグレーションポテンシャルの異方性が反映していることを示している。これらの成果を現在論文投稿に向けてまとめている。 また、次年度以降に計画する成長中断アニール法で形成されたヘテロ界面を有する(110)量子井戸の顕微発光吸収計測に向け、本年度は、半導体ナノ構造を光導波路内に配する試料を用い、試料からの局所励起発光をプローブ光とした新たな導波路透過吸収測定法を開発した。今回、試料にT型量子細線構造を用い、1次元励起子吸収スペクトルを広い温度範囲(4K~室温)で観測することに成功した。この方法は (110)量子井戸の定量吸収計測への適用可能である。この成果はAppl. Phys. Lett.誌に投稿・掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は電気的中性面であるGaAs(110)面における原子平坦表面・ヘテロ界面制御技術の開発とその表面平坦化過程における物理メカニズムの解明を目的とし、H23年度はGaAs(110)面としてGaAs基板をへき開して形成されるへき開(110)面を用い、具体的には次の2点を研究課題に設定していた。1点目はへき開(110)面における原子平坦表面制御技術の開発として、平坦表面形成法に成長中断アニール法を適用し、そのアニール条件の最適化を探ることを、2点目は表面平坦化過程の物理メカニズム解明に向け、成長層面内分布を導入し、成長中断アニール表面の表面モフォロジー観察から、異方的ステップエッジ形成ダイナミクスの解明を目指した。 本年度は先ず第2の課題を優先的に進め、「研究実績概要」にまとめたように、異方的な表面ステップエッジ形成を観察することに成功し、そのダイナミクスの解明に向けて計画通りに進展している。一方、第1のへき開(110)面上での原子平坦表面形成に向けた成長アニール条件最適化に関しては、アニール表面のステップエッジ方向/テラスサイズの成長中断アニール温度・時間依存性を定量的に評価するためには、条件を幾つも変えたMBE結晶成長・成長中断アニールが必要となる。H23年度は、プリンストン大に試料作製依頼しており、時間的・空間的距離による制約もあり、十分に条件を変えた結晶成長・成長中断アニールを依頼するには至らなかった。 一方で次年度以降に計画する顕微発光吸収計測に向けた定量吸収測定方法の開発を今回H23年度中に行うことができた。これにより、光学計測用量子井戸試料が準備できれば、すぐに光学計測に取り掛かることが可能となった。この点は、当初の計画より大きく進展している。 以上のことを踏まえ、研究全体としては研究目標達成に向けて概ね当初の計画に従って順調に進んでいると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度に引き続き、24年度もへき開GaAs(110)面における原子平坦表面形成に向けた成長中断アニール条件の最適化とその表面平坦化メカニズムの解明を推進し、その理解を深化させる。平成23年度はGaAs基板のへき開により形成されるへき開(110)面を使用したが、24年度はさらにGaAs(110)基板表面上へのMBE結晶成長・成長中断アニールを試みる。へき開(110)面と異なり、(110)基板表面はジャスト(110)面とは成り得ず(加工精度のよる方位ずれなどにより)、成長表面には種々の原子ステップエッジが存在しており、その表面平坦化はより困難となる。そこで、へき開面上での実験から得た平坦化の知見を基に、(110)基板上での原子平坦表面形成のアニール最適化条件を探る。 また、成長中断アニール法で形成される原子平坦表面や特徴的なステップエッジ形状をヘテロ界面に包含する(110)量子井戸構造を作製する。この量子井戸試料に対して、H23年度に開発した吸収測定系や、顕微発光画像測定系を用い、発光・吸収測定を行う。発光・吸収に現れる界面に形成されているステップエッジの凸凹を反映したエネルギー分布、さらにその偏光特性の2次元空間マッピングを行い、AFM測定による表面観察結果との比較を行う。 本研究代表者が現在研究員として従事する新学術領域研究(研究領域提案型)「低次元半導体レーザーの低しきい値光学利得と高速光非線形性」にて平成23年度末にMBE装置が立上り、それを用いたGaAs試料の結晶成長・成長中断アニールが可能となった。これにより、より速い試料作製-評価行程間のフィードバックが可能となり、本研究の大きな進展が期待できる。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度研究費使用計画として、設備備品費に原子間力顕微鏡(AFM)装置の整備を申請していた。しかし、23年度は、同一条件で作製された試料のみを用い、その表面モフォロジー観察に注力したこと、また一方で、成長アニール条件最適化に向けた条件を種々に変えた結晶成長・成長中断アニールを依頼するには至らなかったこともあり、試料の表面観察は現有AFM装置で対応することができた。AFM装置整備として計上していた費用は次年度に繰り越すことにした。 「今後の研究の推進方策」(上述)で書いたように、23年度末に本研究代表者のいる研究室でMBE装置が立上り、それを用いたGaAs試料の結晶成長が可能となった。24年度からはこのMBE装置を用い、成長中断アニール条件最適化に向けた種々の試料を作製し、その表面モフォロジー観察を行う予定である。表面モフォロジー観察を効率よく行うには、AFM測定システムの改良等が必要不可欠である。そこで、23年度から繰り越したAFM装置の整備を24年度前半に行うこととする。また、MBE結晶成長・成長中断アニール試料作製のためGaAs基板類を消耗品として購入する また、次年度より成長中断アニール法で形成される原子平坦表面や特徴的なステップエッジ形状をヘテロ界面に包含する(110)量子井戸構造の顕微発光吸収分光画像評価を行うことになる。その光学系構築のために必要となる光学部品類(特に高価なものは偏光測定用オプティクス類)、光学ステージ類の購入を計画している。
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