研究課題/領域番号 |
23560359
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
吉田 正裕 東京大学, 物性研究所, 研究員 (30292759)
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キーワード | 結晶工学 / 表面・界面物性 / 半導体材料 / 量子井戸 / 量子細線 |
研究概要 |
平成24年度は、前年度に引き続きGaAs(001)基板のへき開により形成されるへき開(110)面上へのMBE結晶成長とそれに続く成長中断in-situアニール法による表面平坦化を試みた。特に、成長中断アニール後に形成される異方的なステップエッジの形成ダイナミクスの解明に注力した。 へき開(110)面上へのMBE結晶成長の際に、成長膜厚の空間分布を導入して成長中断アニールを行うと、異方的なステップエッジが形成される。成長中断アニールによる表面平坦化プロセスでは表面原子マイグレーション過程が重要であり、異方的ステップエッジが観測されたことは、(110)面でのステップエッジ形成には表面原子マイグレーションポテンシャルの異方性が強く反映されていることを示唆している。今年度はこの関連性について考察を深化させた。現在これらの成果を論文投稿へ向けてまとめている。 また、原子平坦ヘテロ界面を有する(110)量子井戸の顕微発光吸収計測に向けて、光導波路内に半導体ナノ構造を配した試料を用い、局所励起発光をプローブ光とする新たな導波路透過吸収測定法を開発・発展させた。前年度、量子細線構造への適用を報告したが、今年度は量子井戸構造への適用も行い、2次元励起子吸収スペクトルの定量計測に成功した。この成果は共著としてJpn. J. Appl. Phys.誌に投稿掲載された。 さらに、量子井戸中の2次元励起子連続状態光学吸収の絶対吸収量算出とその吸収強度標準としての可能性について考察した。量子ホール抵抗やグラフェン光吸収に見られる2次元電子系と微細構造定数αとの関係性が、2次元励起子連続状態吸収でも同様に成り立つことを明らかにした。この成果はAppl. Phys. Lett.誌に投稿掲載された。これにより原子平坦へテロ界面(110)量子井戸の絶対定量吸収計測が可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は電気的中性面であるGaAs(110)面における原子平坦表面・ヘテロ界面制御技術の開発とその表面平坦化過程の物理メカニズム解明を目的としている。その中で平成24年度はGaAs(110)面としてGaAs(001)基板をへき開して形成されるへき開(110)面を対象に、その結晶成長表面での成長中断アニールによる表面平坦化過程の物理メカニズム解明を研究課題の中心に設定し推進した。面内膜厚分布を導入したへき開(110)結晶成長表面において成長中断アニール時に形成される異方的ステップエッジについて、その形成メカニズムを(110)面での表面原子マイグレーションポテンシャルの異方性との関連性から考察を深め、表面平坦化過程のダイナミクスについての理解が進んだ。この点は順調に進展している。 顕微発光吸収計測に向けた定量吸収測定法の開発については、本年度、量子井戸構造への適用にも成功し、さらにその絶対吸収量計測へ向けた取り組みも行なわれている。光学計測用量子井戸試料が準備できれば、すぐに光学計測に取り掛かることが可能な状態となっている。 成果発表に関しては、成長中断アニールによる異方的ステップエッジ形成とその形成メカニズム解明に関する実験結果・考察と進んでいるが、論文発表に向けた成果取りまとめに少々時間を要し、論文投稿まで至っていない。その点については、少しの遅れと認識しており、最終年度に向けて注力が必要と感じている。 以上のことを踏まえ、研究全体としては研究目標達成に向けて概ね当初の計画に従って順調に進んでいると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる平成25年度は、より実応用に有用である(110)基板への結晶成長とその成長中断アニールによる表面平坦化に向けた研究を進展させる。へき開(110)面と異なり、(110)基板表面はジャスト(110)面とは成り得ず(加工精度のよる方位ずれ)、成長表面には種々の原子ステップエッジが存在しており、その表面平坦化はより困難となる。そこで、へき開面上での実験で得られた平坦化の知見を基に、(110)基板上での原子平坦表面形成のアニール最適化条件を探る。最適アニール条件下での表面平坦化により、テラス間隔が10μmを大きく超える超微傾斜平坦GaAs(110)表面の形成を目指す。 また、このような原子平坦表面や特徴的なステップエッジ形状をヘテロ界面に包含する(110)量子井戸構造の作製も試みる。これまでに開発してきた顕微発光吸収計測法を用い、これら量子井戸試料の発光・吸収測定を行う。ヘテロ界面に形成されているステップエッジの凸凹を反映するようなエネルギー分布を発光・吸収のスペクトルや2次元イメージ画像として観測し、さらにその偏光特性の2次元空間マッピングを行い、表面観察結果との比較を行う。 本研究代表者が24年度まで研究員として従事してきた新学術領域研究(研究領域提案型)「低次元半導体レーザーの低しきい値光学利得と高速光非線形性」にてMBE装置が立ち上がってきており、その装置を用いたGaAs試料の結晶成長・成長中断アニール実験が可能となった。これにより試料作製-評価行程間の素早いフィードバックが可能となり、より効率的な研究の推進が期待できる。 25年度は最終年度となることから、研究成果の精力的な発信にも努める。まずは、現在取りまとめ中である”へき開(110)面上における異方的ステップエッジ形成”に関する研究成果を早急にまとめ論文投稿へと進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
「今後の研究の推進方策」(上述)で述べたように、本研究代表者がこれまで従事してきた新学術領域研究により所属研究室でのMBE装置の立ち上げがほぼ完了し、その装置を使用したGaAs試料結晶成長が正常稼動している。これにより効率的な試料作製-評価プロセスルーチンが確立されてきており、今年度はこのMBE装置を用い、成長中断アニール条件最適化に向けた種々の試料を作製していく予定である。この試料作製で使用するGaAs(110)、(001)基板類を消耗品として購入する予定である。 また、成長中断アニール法で形成される原子平坦表面や特徴的なステップエッジ形状をヘテロ界面に包含する(110)量子井戸構造の顕微発光吸収分光画像計測に向け、より高効率高感度な光学計測系を構築していく必要がある。そこで必要となる光学部品類(特に高価なものは偏光測定用オプティクス類)、光学ステージ類の購入を計画している。 また、最終年度であり、その取りまとめ作業、外部発表の費用を予定している。
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