前年度までの研究計画に則り構築した最大8インチのシリコン基板全体の実効少数キャリアライフタイムτeffを測定し得るマイクロ波吸収測定システムを用いて、シリコン基板表面のパッシベーション効果を精密評価した。光キャリアの励起には635nmと980nmの半導体レーザ光源を用いた。多波長光源を利用してτeffを測定することにより、励起光波長による光侵入長の違いを利用して試料内の光キャリアの発生場所に違いを生じさせ、シリコン中欠陥の量と分布の解析を可能とした。多波長光照射時のマイクロ波吸収データから得られたτeffを解析して、バルクライフタイム及び表面再結合速度の算定が可能になった。 本手法を用いて、これまで酸素ラジカル照射と水蒸気熱処理を組み合わせた極薄膜、水蒸気熱処理を施したSiO蒸着膜などのシリコン表面パッシベーション効果について評価した。さらに、最終年度はシリコン基板に注入した不純物のマイクロ波加熱による活性化について評価した。イオン注入直後のシリコン基板のτeffは635nm光照射時1.4μs、980nm光照射時13μsとなり、両者に差が生じた。これは980nm光照射時に基板奥深くで発生したキャリアがシリコン表面に拡散して消滅することを示している。即ちシリコン結晶バルクは欠陥が少なく良質であり、表面に高密度の再結合欠陥が局在することがわかる。一方、熱処理後のτeffは100μsに増加し、且つ635nmと980nmの照射光波長に依らなかった。この結果はシリコン表面の再結合欠陥がマイクロ波加熱により回復したことを示している。 これらの結果は、マイクロ波吸収測定がシリコン表面のパッシベーション状態の精密評価のみならず、pn接合の評価にも有用であることを示している。本研究により得られた成果はJpn. J. Appl. Phys誌など原著論文7件にまとめ、国際会議発表11件を行った。
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