研究課題/領域番号 |
23560361
|
研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
坪井 望 新潟大学, 自然科学系, 教授 (70217371)
|
キーワード | 薄膜太陽電池 / カルコパイライト / スパッタ法 / 銅インジウム硫化物 |
研究概要 |
Ar希釈CS2反応性ガスに加えてAr希釈H2S反応性ガスも供給可能に改造した,CuとInの2組の対向ターゲット対及び基板回転機構を有するスパッタ装置を用いて,これまでのCS2による薄膜作製条件を参考にして,H2Sを用いてソーダライムガラス基板(450℃)上でCuとInの交互スパッタ時間比(tCu/tIn)を変化させて薄膜を作製した。交互スパッタの1周期での堆積膜厚は,CS2を用いた場合と同様にCuInS2の1分子オーダー程度に対応していたものの堆積速度はやや遅い傾向がみられた。CS2の場合と同様に,大きなtCu/tIn比ではCuxS 異相XRDピークが現れるCu-rich薄膜が得られ,tCu/tIn比の減少に伴ってCuxS異相が抑制されてCuInS2のXRDピークのみの化学量論組成薄膜が得られた。しかしながら,さらにtCu/tIn比を減少させた際にはCS2の場合のようなCuIn5S8異相が現れるIn-rich薄膜は得られず,化学量論組成付近薄膜が得られた。これらの結果は,H2Sによる反応性スパッタ法によるCuInS2薄膜が作製可能なことを示しているものの,H2SとCS2の反応性が異なる可能性も示唆しており,興味深い。一方,バッファー層として有用な高抵抗無添加ZnO薄膜を酸素ガス中でZnターゲットを用いた反応性直流マグネトロンスパッタ法でガラス基板上(無加熱:80℃付近)で作製し,その上に透明導電膜として有用なZnO:Al 薄膜をArガス中でZnO:Al焼成ターゲットを用い直流マグネトロンスパッタ法で作製したころ,n形高導電性(10-1Ωcm程度)が得られた。この結果を踏まえてZnO:Al/ZnO/CuInS2/Mo/glass 積層構造の試作を開始したが,その電気的特性においてはまだ十分な整流性が得られておらず,積層構造作製条件の最適化を進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、これまでのCS2ガス供給下でCu及びInを交互堆積する対向ターゲット式反応性スパッタ法によるCuInS2薄膜作製の実験データを基礎として、CS2ガスの代わりにH2Sガスを用いてCuInS2薄膜作製を試み、その高品質薄膜作製条件を明らかにすると共に,薄膜太陽電池セル作製を試みることである。初年度の平成23年度ににおいてはH2Sガス供給も可能なCuInS2薄膜作製用の交互堆積スパッタ装置を構築し、H2SでCuInS2薄膜が作製可能であることを示す初期的データを得た。平成24年度では,①初期的データを基に,薄膜を様々な条件で作製し,その特性評価結果を薄膜作製条件にフィードバックすることで高品質薄膜作製条件を確立すると共に,化学量論組成のずれ等と薄膜特性の関係を明確化することと,②これら結果を踏まえつつ,平成24年度後半頃から小面積太陽電池セルの試作を開始するが目的とされていた。目的①については,CuとInの交互スパッタ時間比(tCu/tIn)に対する薄膜の特性等の解明に取組み,異相フリーなCuInS2化学量論組成薄膜が得られるスパッタ条件を明確化したことに加えて,H2SとCS2の反応性が異なることに起因する可能性がある興味深いデータも得られていることから,その達成度は高いと評価できる。目的②については,真空蒸着装置を改造した直流スパッタ装置を用いることで,Mo裏面電極,n形透明導電性薄膜Al添加ZnO薄膜および高抵抗無添加ZnO薄膜バッファー層の作成条件を明らかにした後に,ZnO:Al/ZnO/CuInS2/Mo/glass積層構造の試作を開始するだけでなく,既にその電気的特性評価結果等から積層構造作製条件の最適化に取り組み始めていることから,ある程度の達成度にあると評価できる。以上の状況から、総合的に、おおむね順調に進展しているものとみなせる。
|
今後の研究の推進方策 |
昨年度に構築したH2S供給可能な交互堆積反応性スパッタ装置を用いて、引き続き、種々の条件でCuInS2薄膜の作製及び特性評価を進める。これら特性評価の検討結果を薄膜作製条件にフィードバックし,均一で高品質なCuInS2薄膜の作製条件を確立すると共に,化学量論組成のずれ等と薄膜特性の関係を明確化する。一方、マグネトロンスパッタ法による透明導電膜Al添加ZnO窓層の特性改善に加えて,バッファ層として反応性マグネトロンスパッタ法による無添加ZnO層やケミカルバス法によるZnS(O,OH)層の特性改善もすすめる。これら成果を踏まえて,<Al添加ZnO窓層/無添加ZnOバッファ層/ZnS(O,OH)バッファ層/CuInS2光吸収層/Mo電極層/ソーダライムガラス>を基本構造とする小面積太陽電池セルを作製する。各層で基本的特性評価は、組成分析(EPMA・XPS・オージェ:共同設備)、表面や断面の形態観察(SEM・AFM:共同設備)、結晶構造解析(X線回折:共同設備,電子線回折:現有設備)、光学的特性(光吸収およびフォトルミネッセンス:現有設備)電気的特性(ホール効果測定:現有設備)などで行う。
|
次年度の研究費の使用計画 |
CuInS2光吸収層に加えて,透明導電膜,バッファ層および電極層などの薄膜作製のための原料や薬品など消耗品,また装置補修消耗部品を購入する。研究成果発表及び研究調査のための旅費としても使用する。
|