研究課題/領域番号 |
23560362
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
新保 一成 新潟大学, 自然科学系, 教授 (80272855)
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研究分担者 |
馬場 暁 新潟大学, 研究推進機構超域学術院, 准教授 (80452077)
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キーワード | 水晶振動子 / 光導波路分光 / 表面プラズモン / フタロシアニン / ペンタセン |
研究概要 |
本研究では、水晶振動子微量天秤(QCM)法と光導波路分光法または表面プラズモン共鳴(SPR)法の複合センサの測定系を構築するとともに、主に有機機能性薄膜の堆積過程のその場評価を試みている。 前年度に引き続き、真空蒸着装置に光ファイバを導入することによるQCM・導波路分光法複合センサ測定系を用いて、有機材料の真空蒸着薄膜堆積過程において膜厚と光吸収特性の関係を詳細に調べた。材料には、有機太陽電池に有望で種々の会合体を形成する鉛フタロシアニンを用いた。実験結果から、光導波路分光法によって単分子膜以下の膜厚で光吸収特性が測定できることが明らかとなり、単分子膜程度の厚さでは分子は単量体の状態で堆積されていることがわかった。膜厚が増大すると会合体の形成が顕著となり、特に蒸着レートが小さい場合にはJ会合体が優先的に形成された。同時にH会合体の形成も観測されており、偏光依存性からH会合体は基板法線方向への配向が考えられた。さらに、光導波路分光法で光特性が線形性を有する膜厚範囲を明確にした他、鉛フタロシアニン薄膜中における導波モードによると思われる新規な光吸収ピークについて膜厚依存性を調べた。この内容について国際学会で発表を行ったほか、Jpn.J.Appl.Phys.に投稿し受理された。さらに、トランジスタ材料であるペンタセンについても検討を始めており、蒸着レートと結晶形成の関係について調べている。さらに、蒸着過程において電気特性をその場測定するための測定系も構築できており、評価を進めている。 また本研究の複合センサによって、大気中における液晶分子蒸着膜や有機色素スプレー薄膜、水溶液中における電解質色素分子の交互吸着膜の堆積過程のその場評価も行っている。溶液系においては電圧印加も行えるように装置を改良しており、電気泳動に基づく分子吸着の様子も評価を始めたところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上述したように、水晶振動子微量天秤(QCM)法と光導波路分光法または表面プラズモン共鳴(SPR)法の複合センサの測定系を構築するとともに、主に有機機能性薄膜の堆積過程のその場評価を進めている。 これまでに真空・大気・溶液中での同時評価に必要な測定系を構築できており、大気中での測定に関しては昨年度に、真空中での評価においては本年度に学術論文が受理されており、研究成果も順調にあがってきている。また当初予定していたペンタセンと酸化モリブデンの共蒸着膜に関しても実験を始めており、それぞれ単体の薄膜および共蒸着膜に関してデータが出てきている他、溶液系においてはフタロシアニン系で電気泳動法や交互吸着膜での基礎的評価結果が得られている。さらに、以上の実験結果を評価するためのソフトウェア作成も終えている。 なお当初計画では、H24年度以降に蛍光性分子の吸着に基づく蛍光を導波光として検出する実験を行う予定としていたが、まだ実施に至っていない。さらに、電気化学堆積による薄膜堆積評価もまだ実現していないため、現在までの達成度は「やや遅れている」とする。ただし、これらの実施に向けて準備を行っており、研究期間終了までに遅れを取り戻したい。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度であるので、予定の内容について研究を進めていきたい。ペンタセン蒸着薄膜に関しては、酸化モリブデンとの混合の効果や、分子配向制御による光学物性変化について詳しく調べたい。特に、分子配向制御に関しては基板表面へのラビングやグレーティング構造、斜め蒸着法など複数の方法を試したい。さらに、これらの薄膜作製過程で電気特性の測定も同時評価する構成とし、より詳しい評価を行う。これによって、種々のデバイスに有用な構造の薄膜構造について知見を得る。 他に、当初計画のうち実施に至っていない内容を進めていきたい。まず、溶液系においてローダミンやシアニンなどの蛍光性分子の吸着を導波光によって検出する実験、アニリンやピロールなどの電気化学堆積による薄膜堆積評価を行う。また、これと同時に共振抵抗の同時測定も行い、pHなどによる薄膜の構造変化をとらえたい。これらの実験結果から、高性能な有機デバイス・バイオセンサの構築に結び付ける。 なお、研究成果に関しては6月および9月の国際学会をはじめ、国内学会においても随時発表を行っていく。これらについて取りまとめ、学術雑誌に投稿することを予定している。
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次年度の研究費の使用計画 |
実施の最終年度にあたり、研究計画を完遂するために研究室を使用していく。まず物品費に関しては、概ね測定系が完成しているため大きな測定装置の購入予定は無い。評価を行う有機機能性材料(鉛フタロシアニン、ペンタセン、シアニン、MEH-PPV、P3HT、ローダミン、サイトップ、HMDSなど)や金属材料(金、銀、アルミニウム)、酸化物材料(酸化モリブデン、酸化バナジウム)の他、水晶基板、ITO基板、有機溶媒(アセトン、クロロホルム、ベンゼン、エタノール)、真空部品、電気回路部品などを購入したい。 旅費に関しては国内学会での研究発表をおこなうための旅費として予定している。そのほか、受理された学術論文の投稿料をまかないたい。
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