研究課題/領域番号 |
23560365
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
垣尾 省司 山梨大学, 医学工学総合研究部, 准教授 (70242617)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 縦波型リーキー弾性表面波 / 逆プロトン交換 / 低損失化 / バルク波放射 |
研究概要 |
情報通信の大容量化・多機能化に伴い,LiNbO3やLiTaO3の圧電性を利用した弾性表面波フィルタの低損失化・広帯域化が強く要請されている.本研究では,逆プロトン交換法によってLiNbO3基板内部に埋め込んだプロトン交換層を,高速伝搬する縦波型リーキー弾性表面波(LLSAW)の伝搬損失の原因となるバルク波の「トラップ層」として利用することにより,これまで困難であった低損失化を図り,現在の約2倍の周波数帯を利用する次世代携帯電話端末に適用可能な高周波・低損失・スプリアスフリー・高安定弾性表面波フィルタを実現させることを目的としている.本年度の実施内容と研究成果を以下に示す. 1.提案構造の作製・評価:LLSAWに対する結合係数の大きなXカット36°Y伝搬LiNbO3を基板として,逆プロトン交換法を用いて3インチウエハ上に提案構造を形成し,電極波長3.6μmの送受電極間,および共振子電極の周波数特性からLLSAWの伝搬特性を評価した.試料上の一部に,レイリー波の結合係数が未処理基板の約8割まで回復した「good領域」が存在すること,この「good領域」では,未処理試料と比較すると,自由表面の伝搬損失が約1/3に減少,挿入損失が大幅に低減,共振特性が格段に向上することを明らかにした.当初懸念されていたスプリアスは観測されなかった.2.圧電性回復機構の探索:圧電性が回復しない領域が試料上に多い要因として,逆プロトン交換時に自発分極がランダムに配置される可能性が高いことを明らかにした.そこで,初期プロトン交換時のLi+濃度を増加させて,逆プロトン交換時に核となる自発分極を残留させた結果,共振特性が格段に向上する共振子の個数が4倍に増加した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
提案構造を作製,評価することにより,これまで困難であった縦波型リーキー弾性表面波の低損失化を初めて実証した.しかし,圧電性が回復しない領域が試料上に多い問題点が新たに判明した.この要因として,逆プロトン交換時に自発分極がランダムに配置される可能性が高いこと,初期プロトン交換時のLi+濃度を増加させるとランダム化が緩和されることを明らかにしたので、今後の検討により,具体的な数値目標を有する高周波・低損失・スプリアスフリー・高安定弾性表面波フィルタの実現が見込まれる.なお,懸念していたスプリアスは観測されなかったため,当初予定していたプロトン濃度分布を傾斜化した構造は不要と判断し,検討しなかった.また,解決を優先すべき問題点が判明したため,当初予定していた,4層構造に対する解析と詳細な構造設計の実施には至らなかったが,以上の結果より,おおむね順調に進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
引き続き,圧電性回復に関する問題点の解決を最優先に研究を遂行する.初期プロトン交換時のLi+濃度をさらに増加させ,自発分極のランダム化をより緩和させるために,初期プロトン交換後のアニーリング処理を検討する.さらに,有限要素解析を利用した最適構造の探索を図る.これらの検討を統合して,具体的な数値目標の達成に繋げる.
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次年度の研究費の使用計画 |
設備備品としてアニーリング処理に必要な電気炉の購入を検討しており,試薬等の消耗品購入,成果発表のための国内外旅費に使用する.
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