研究課題/領域番号 |
23560372
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
池田 正則 日本大学, 工学部, 教授 (10222902)
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研究分担者 |
清水 博文 日本大学, 工学部, 上席研究員 (10318371)
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キーワード | 表面光電圧 / 多結晶Si薄膜 / TFT / 結晶性評価 |
研究概要 |
本研究はボトムゲート型薄膜トランジスタ(TFT)に使われる多結晶Si薄膜の結晶性評価技術を確立する目的で行っている。平成24年度に行った研究の概要を以下に記述する。 (1)表面光電圧装置の低ノイズ化:多結晶Si薄膜からの交流表面光電圧検出のさらなる高感度化のために,測定装置の除震化を行った。これにより,機械的ノイズレベルは20~40μVから1μV未満へと減少した。 (2)多結晶Si薄膜作製:アモルファスSi薄膜の多結晶化を行う真空熱処理装置を立ち上げ,様々な試料の作製を可能にした。この装置を用いてアモルファスSi薄膜を温度300~900℃で真空中熱処理を行い,これらの試料の交流表面光電圧評価を行った。この結果,温度600℃以上で結晶化が進むこと,最も結晶化が進む温度が約800℃であることを確認した。また,交流表面光電圧の周波数特性から,低周波における交流表面光電圧の値が結晶性により異なる傾向が見られた。さらに,交流表面光電圧は励起光パワーの増大と共に増大するが,結晶性が良い試料では光パワーの大きい領域で飽和する結果を得た。 (3)試料作製のためのスパッタ装置の立ち上げ:試料作製の外部委託が研究遂行の障害になっているため,Si薄膜作製用スパッタ装置の立ち上げを行った。現在,装置の組み立てが終了し,真空排気試験を行っている。 (4)多結晶Si薄膜における少数キャリア挙動の検討のため,単結晶Si角棒及び単結晶Siウェーハについて,それぞれJIS法及び光電圧法により少数キャリア寿命評価を行った。この結果,試料表面及び裏面におけるキャリア再結合による少数キャリア寿命への影響を確認した。 以上,低ノイズ化により新しい多結晶Si薄膜の結晶性評価法を前進させた。また,励起光パワーの選択が重要である点を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究はボトムゲート型薄膜トランジスタ(TFT)に使われる多結晶Si薄膜の結晶性評価技術を確立する目的で行っている。平成24年度の達成度について以下に記述する。 (1)交流表面光電圧測定の高感度化・低ノイズ化:励起光源をLEDからLDへ変更して約7倍の高感度化を達成した。また,除震台の導入により機械的ノイズを20~40μVから1μV未満へと減少させ,測定ばらつきを軽減させた。平面分解能の向上については,交流表面光電圧検出電極面積に依存する結果が得られており,検出電極であるITO膜のついた円柱形石英ブロックの小型化が必要である。平面分解能の向上は現在も検討中である。 (2) トップゲート構造試料の評価:外部委託による作製したアモルファスSi薄膜試料について,立ち上げた真空熱処理装置を用いて多結晶化を行った。この試料について表面光電圧測定を行い,加熱処理温度と多結晶薄膜の表面光電圧の関係を明らかにした。多結晶Si薄膜の表面,界面状態と表面光電圧の関係については,装置トラブルにより試料の作製が困難であるために行うことが出来なかった。現在,立ち上げ中のスパッタ装置で行う予定である。 (3)ボトムゲート構造試料:ボトムゲート構造試料については,外部委託費用が増大する理由で作製を行わず,金属薄膜及びSi薄膜形成用のスパッタ装置を作製する方向へ変更した。現在,立ち上げ中のスパッタ装置の真空排気確認を行っている。ボトムゲート構造試料についての評価は達成されていない。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度までの研究遂行の問題点は外部委託で行う試料作製であり,これが研究費の増大と研究進捗の遅延の原因となった。この状況を改善するため,試料作製のためのスパッタ装置の立ち上げを行っている。本装置が使用可能になれば,多結晶Si薄膜の膜厚,表面処理,及びボトムゲート構造試料の作製など,様々な条件の試料作製が可能になる。現在,装置の真空排気確認を行っており,6月中の立ち上げ完了を目指している。一方,交流表面光電圧検出電極の小型化を進め,平面分解能の向上を目指す。 (1)トップゲート構造試料の評価:現有するアモルファスSi薄膜を熱処理することで多結晶化させた試料について,結晶性評価(粒径観察およびX線回折パターン測定)と交流表面光電圧との関係を明らかにする。また,水素終端処理した試料を作製し,交流表面光電圧測定を行う。スパッタ装置の立ち上げにより試料作製を可能とし,多結晶Si薄膜の膜厚と結晶粒径,交流表面光電圧の関係を調べる。さらに,多結晶Si薄膜表面の酸化を行いSiO2/Si界面状態と交流表面光電圧の関係を明らかにしていく。 (2)ボトムゲート試料の作製と評価:立ち上げたスパッタ装置により,多結晶Si薄膜/SiO2/金属膜構造,及び多結晶Si薄膜/SiO2/単結晶Si構造の作製が可能となる。これらのボトムゲート構造試料の作製と交流表面光電圧測定を行い,トップゲート構造試料との違いを考察していく。 平成25年度も昨年度と同様に,池田,清水,大学院生1名により研究を行っていく。池田は研究統括を行いつつ,大学院生と共にスパッタ装置の立ち上げ,SPV装置の改良及びデータ解析を行う。清水は物性評価を担当する。また,大学院生にはSPV装置管理,測定及びデータまとめを行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は,更に様々な条件での試料作製を可能にするため,アモルファスシリコン薄膜形成のスパッタ装置を立ち上げる。この装置の立ち上げに25万円を使用する。このスパッタ装置には,熱処理及び水素終端化処理ができる機能も組み込む。この処理における雰囲気ガス購入のために10万円程度を使用する予定である。更に,本装置を用いてボトムゲート型構造試料の作製を行っていく。電界放射走査型電子顕微鏡及びX線回折装置による結晶性評価と表面光電圧周波数依存性測定結果との相関を調べ,多結晶シリコン薄膜内の少数キャリア挙動,表面水素終端化による表面電子状態について考察する。また,ボトムゲート型構造試料の測定結果と,すでに取得している下地金属膜のない構造の試料における測定結果との比較を行い,下地金属膜の影響を調べる。実験を行うための材料費,薬品代などの消耗品として10万円程度を考えている。また,これらの結果を論文として報告するために論文別刷り,英文添削代として10万円を予定している。
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