研究課題/領域番号 |
23560374
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研究機関 | 東京工芸大学 |
研究代表者 |
星 陽一 東京工芸大学, 工学部, 教授 (20108228)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 有機EL素子 / スパッタ堆積 / 低ダメージスパッタ / キャリア注入特性 / 仕事関数 / 2次電子 / 高エネルギー粒子 |
研究概要 |
本研究では、有機EL素子の上部電極膜を有機EL素子の動作特性を劣化させること無しにスパッタ法で形成する技術を開発することを目的としている。今年度は、これまでの研究で有機膜へのダメージを抑制できることが確認された対向ターゲット式スパッタ源を利用して有機EL素子を作製することで、その有効性の検証およびさらなる改善点の検討を行った。その結果、(1)対向ターゲット式スパッタ源を用いる場合にも、スパッタ中にターゲット端から放出されるわずかな2次電子の基板への入射が、素子特性を著しく劣化させており、成膜中の高エネルギー電子の入射を抑制することで、顕著な改善効果があること、(2)低ガス圧中でスパッタ堆積すると高エネルギースパッタ放出粒子の入射によって、有機膜中にダメージが発生して、漏れ電流が増加してしまうこと、(3)2次電子衝撃の抑制や、スパッタ堆積中のガス圧を増加させることによって、漏れ電流の抑制や、発光特性は改善されるものの、蒸着法で堆積する場合に比べて、まだ大きなキャリア注入障壁は大きな素子となっており、さらなる検討が必要であることを明らかにすることができた。しかし、有機EL素子の特性を改善するためには、スパッタ中に発生する高エネルギーの電子や、原子などの粒子が有機膜表面をに入射することを抑制することが有効であることは確認できたものの、蒸着法と同等なキャリア注入障壁の素子を実現するまでには至っておらず、今後、この原因を探っていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概ね当初予定していた研究計画通り以下のように研究は進められている。1) 対向ターゲット式スパッタ源を、計画を前倒しにして導入し、マグネトロンスパッタ源1個および対向ターゲット式スパッタ源3個を持つスパッタ槽を製作し、これを用いることでSiON封止を含めて、様々な種類の電極構造を持つ有機EL素子の作製プロセスの検討を行うことができるようにした。2) 有機EL素子の発光特性が、スパッタ法で上部AL陰極膜を堆積した場合に、陰極からの電子注入特性および、陽極からの正孔注入特性がどのように変化するか調べ、スパッタ中の2次電子衝撃の完全な抑制が特性改善に必要なことを示すとともに、スパッタ堆積条件による影響についても明らかにすることができた。3) スパッタ中のプラズマから放出される紫外線の影響を、石英ガラス窓を使って調べた結果、あまり影響が無いことが明らかになったものの、石英ガラスに吸収されてしまうさらに短波長の紫外線による影響も考えられ、さらなる検討が必要である。4) 封止用SiON膜の検討に関しては、プラズマCVD法による検討を共同研究者の小林の方で進めており、良好なバリア特性を持つSiON膜の作製条件が明らかになってきた。スパッタ法による検討の方は、SiON膜作製のための対向ターゲット式スパッタ源は設置できたものの、保護膜の作製とそのバリア特性を評価するところまで検討は進んでいない。これは、前述したスパッタ法で上部電極膜を堆積した場合に、基板に入射する高エネルギー電子や原子を抑制しても、キャリア注入特性の劣化が引き起こされる原因を解明することが最重要との考えから、スパッタ封止膜に関する検討については後回しにすることにしたためである。今年度は、スパッタ封止膜に関しても検討を進め、プラズマCVD膜と特性を比較検討する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
1) 高エネルギー粒子の基板衝撃を抑制して堆積した場合でも、蒸着法と比べて大きなキャリア注入障壁が形成されてしまう原因を解明し、特性劣化の無い上部電極堆積法を確立する。2) 透明有機EL素子やトップエミッション形有機EL素子を実現するために不可欠な、上部透明電極を持つ素子の作製を試み、低電圧動作が可能な良好な特性の有機EL素子を実現する。3) キャリア注入障壁を減少させるため、表面処理法や仕事関数制御層の挿入などの検討を行う。下部電極の表面形態が素子特性に与える影響についても検討する。4) PET、PENフィルム基板上へのフレキシブル有機EL素子の作製とその評価を試みる。5) 有機EL素子の耐久性を改善するため、水蒸気に対するバリア特性を持つ応力フリーSiONバリア膜を実現するため、プラズマCVD法およびスパッタ法での作製を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度は、測定装置の故障などの対応のため、消耗品費や旅費の支出を抑制するなどの変更をしたため、4,515円の残額が生じたが、残額は下記の次年度使用計画の中で今年度予算と合わせて執行する予定である。次年度、研究費で購入予定の主な物品、および支出予定の費用項目を上げると以下のようになる。1) 試料膜作製装置の取り扱いを簡単にするためのスパッタ源の装着、脱着用治具、真空部品 500,000円2) 基板、ターゲット材料、膜厚モニター用振動子、真空測定子、スパッタ用高純度ガス、基板洗浄液などの消耗品、電子顕微鏡用試料作製のための研磨用ダイヤモンドフィルム、電子顕微鏡用フィルム、他 404,515円3) H2Oバリア特性評価測定費用(外部委託) 200,000円 4) 研究調査旅費 200,000円
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