研究課題/領域番号 |
23560374
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研究機関 | 東京工芸大学 |
研究代表者 |
星 陽一 東京工芸大学, 工学部, 教授 (20108228)
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キーワード | 有機EL素子 / 低ダメージスパッタ / 電極膜 / 仕事関数 / プラズマダメージ / 高エネルギー粒子 / メッシュ電極 / 酸化モリブデン |
研究概要 |
本研究では、有機EL素子の上部電極膜を有機EL素子の動作特性を劣化させること無しにスパッタ法で形成する技術を開発することを目的としている。今年度は、昨年度に引き続き有機膜へのダメージを抑制できることが確認された対向ターゲット式スパッタ源を利用して有機EL素子を作製することで、その有効性の検証およびさらなる改善点の検討を行ってきた。 その結果、①対向ターゲット式スパッタ源を用いることで、マグネトロンスパッタでは困難であった発光する有機EL素子の作製が可能となった。②ITO陽極からの仕事関数を増加させるために表面への酸素プラズマ処理方法や、酸化モリブデンバッファー層の堆積方法を検討し、メッシュ電極を用いた酸素プラズマ処理方法を開発するとともに、仕事関数が5.6eVと大きな酸化モリブデンバッファー層が反応性スパッタおよび金属モリブデンの酸化処理で形成できることを明らかにした。③トップエミッション素子実現のため、ITO陽極を上部電極とした素子を作製し検討した結果、通常の成膜法では、発光する素子が実現できないこと、④成膜時にメッシュ電極を基板付近に挿入して成膜することで、発光特性が大幅に改善されること分かった。 現在、メッシュ電極挿入により素子特性が大幅に改善される理由を明らかにするための実験を進めるとともに、その結果に基づき、より特性の良好な素子を実現するための上部電極を成膜する時のメッシュ電極の挿入法や成膜条件の最適化についても詳細な検討を進めている。 SiON系保護膜に関して調査を進めているが、室温でも大気中に長時間放置しておくと膜中に酸素や水分が取り込まれて、大きな応力変化を引き起こすことや、成膜条件を最適化することが良好な水のバリヤ特性を持つ膜を得るには重要であること、などを明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
(理由)有機EL素子の上部電極をスパッタ法で作製する技術を実現するために、プラズマフリーで高エネルギー粒子が基板を衝撃しないために有機EL膜にダメージを与えない対向ターゲット式スパッタ源を装着した成膜装置を構築してそれを用いて素子の作製を進めたにもかかわらず、蒸着法で電極膜を作製した場合に比べると動作電圧がやや高い素子しか作製できていない。 この原因について、様々な実験を通して検討し、その解決方法を模索してきたが、不明の状況が続いてきた。しかし、電極膜成膜時に基板表面付近にメッシュ電極を挿入することで著しく特性が改善される現象を見出し、ようやく、解決の目処がつけられるようになってきた。当初考慮していなかったメカニズムで上部電極から有機層へのキャリア注入特性が劣化してしまっていたことから、少し足踏みしてしまったが、目的とした有機EL素子の電極作製に用いることができる低ダメージスパッタ成膜法を実現することは可能と考えているが、予定していたフィルム基板への素子作製に関する検討がまだできていない。
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今後の研究の推進方策 |
対向ターゲット式低ダメージスパッタ源を用いて上部電極を作製することで発光する素子の作製が可能になったが、蒸着法で作製した素子と比較するとまだ高い動作電圧で動作する素子しか実現できていない。しかし基板付近に網電極を挿入して成膜する独自の方法を開発することで、より低電圧で発光動作するトップエミッション形有機EL素子が得られることが分かってきた。このことから当初目的とした有機EL素子の上部電極をスパッタ法で作製するためのスパッタ成膜法が実現できる目処が立ってきたところである。次年度は最後の年になるので、以下の課題に重点を絞って取り組む。 ①網電極の働きを明らかにするとともに、堆積速度をできるだけ落とさずに成膜できる方法を開発する。 ②ボトムエミッション形でAl上部陰極成膜時の網電極挿入効果を確認し、その働きを明らかにするとともに、最適な挿入方法を明らかにする。 ③分光エリプソメータを用いたその場観察により、電極膜の堆積過程を明らかにする。 ④フィルム基板上への素子の作製と低温成膜したSiON封止膜の特性について検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度が研究最終年である。(次年度で使用予定の直接経費は870,000円。)試料の作製および評価に必要な消耗品や材料費、および学会発表の旅費として使用する予定である。 1) 試料膜作製評価装置の基板ホルダーやポート新設に必要な真空部品および加工代: 300,000円 2) 基板、ターゲット材料、膜厚モニター用振動子、真空測定子、スパッタ用高純度ガス、基板洗浄液などの消耗品、電子顕微鏡用試料作製のための研磨用ダイヤモンドフィルム、電子顕微鏡用フィルム、などの消耗品費 270,000円 3) H2Oバリア特性評価測定費用(外部委託) 100,000円 4) 研究調査旅費 200,000円
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