半導体デバイスと水素との相互作用によって、デバイス特性が変化することは古くから知られているが、その相互作用機構については謎が多い。「半導体デバイスの金属-半導体界面において水素がダイポールを形成する結果、デバイスの電気的特性が変化する」というモデルが1970年代に提案されて以来、このモデルに対する修正や変更は行われていない。しかしながら、提案されているダイポールモデルでは説明できない実験結果も、近年報告されており、水素ガスセンサー等のアプリケーション特性を向上させるためには、半導体デバイスと水素の相互作用機構を解明することが必須である。 電気化学の分野では、インピーダンス測定を行うことによって、対象となる系のLCR成分を解析することが行われている。一方、水素と半導体デバイスの相互作用機構解析においては、そのような測定例の報告はない。そこで、水素とAlGaN/GaNダイオードの相互作用機構を解析するためにインピーダンス測定を行った。 従来のモデル通りに、水素が金属-半導体界面にダイポール層を作るのであれば、水素起因の容量成分を示す半円が新たに生じるはずであるが、窒素中の半円の半径が小さくなるのみであり、新たな半円は生じなかった。この結果は、水素が金属-半導体界面にダイポール層を作る従来のモデルに疑問を呈している。 以上の知見によって、相互作用機構は以下のようにモデル化される。すなわち、水素雰囲気中では、デバイスの金属-半導体界面に原子状の水素が存在し、界面に存在する絶縁膜(自然酸化膜を含む)と何らかの相互作用をすることでバンドダイヤグラムに変化が生じる結果、デバイス特性が変化する。40年ほど前に提案された従来モデルと矛盾する実験結果も得られており、なお不明な点も多いが、新たなメカニズムの関与が予想される。将来的には、本知見によるセンサー等のデバイス特性向上が期待できる。
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