研究課題/領域番号 |
23560381
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研究機関 | 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工 |
研究代表者 |
立木 隆 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工, 電気情報学群, 准教授 (60531796)
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研究分担者 |
内田 貴司 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工, 電気情報学群, 教授 (50531802)
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キーワード | 酸化物高温超伝導体 / ジョセフソン接合 / テラヘルツ波 / 発振素子 |
研究概要 |
研究目的である固有ジョセフソン接合を用いた完全薄膜型テラヘルツ波発振素子の製作および高性能化を実現するために、以下の要素技術に関する研究を遂行した。 1.有機金属分解法によるBi系高温超伝導体(Bi-2212)薄膜のための酸化セリウムバッファ層の作製・・・Bi-2212薄膜の大粒径化のために酸化マグネシウム基板上にバッファ層である酸化セリウム薄膜を電子ビーム蒸着およびポスト熱処理により作製した。得られた酸化セリウム薄膜(膜厚 約50nm)は2つの結晶方位に配向していた。 2.テラヘルツ波発振部の設計および薄膜アンテナの設計・試作・・・従来の数値シミュレーションから簡易的な解析手法により、発振部のバイアス条件とインピーダンスを求めた。また、設計した薄膜スパイラルアンテナによる高効率化の検証のため、ボロメータ検出器を用いてアンテナ特性を評価した。 3.ニオブ系ジョセフソン接合を用いたプロトタイプの試作・・・薄膜アンテナとの結合に適したニオブ系ジョセフソン接合を製作し、高周波応答特性を評価した。 4.Bi-2212バルク型固有ジョセフソン接合を用いた発振素子の放射特性の測定・・・薄膜型発振素子の製作に先立ち、Bi-2212バルク単結晶を用いた素子を製作し、昨年度本研究で構築したテラヘルツ波測定システムにより放射特性を評価した。これより、2.の発振部の設計とほぼ同じ共振周波数(420~770GHz)と共振モードの放射が観測されることが、様々な電流バイアス条件と動作温度で示された。以上のように、当該年度までに固有ジョセフソン接合を用いた発振素子の製作から放射特性の評価まで一貫して研究を行うことが可能になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要の1~4の番号に対応させて以下に達成度を述べる。 1.Bi-2212薄膜の結晶粒を現状の数十ミクロン径から一桁向上させるには、バッファ層の導入による基板との格子不整合度を改善することが有用である。電子ビーム蒸着とポスト熱処理により作製した酸化セリウムバッファ層は、配向度に改善の必要があるため、Bi-2212薄膜の製作に遅れが生じている。 2.発振部の設計については、与えられた接合サイズから薄膜アンテナとの整合に必要なインピーダンスの計算値が得られ、薄膜アンテナの設計と試作については、特性評価を終え、更なる特性向上の段階に入っている。 3.ニオブ系ジョセフソン接合を用いたプロトタイプの試作については、薄膜アンテナと結合できる素子の製作に目処がついたものの、接合自体が持つ高周波特性の改善が必要である。 4.Bi-2212バルク単結晶を用いた発振素子を製作し、特性評価することにより、本研究で構築したテラヘルツ波測定システムが発振強度および発振周波数を評価するうえで十分な感度と分解能を有することを示すことができた。また、同発振素子のバイアス・温度条件と発振モードを評価することにより、発振機構のより深い理解が得られた。以上のように、各要素技術の進展に差があるものの、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
Bi-2212薄膜の大粒径化を目指し、酸化セリウムバッファ層の良質化(配向度と粒径)を行う。しかしながら、当該年度の研究により、酸化セリウムの作製を電子ビーム蒸着およびポスト熱処理のみで実現することは難しいといった課題が挙げられる。そのため、バッファ層の作製方法の変更あるいはバッファ材料の再選定、もしくはBi-2212薄膜の作製方法自体の改善(成長モードの変更)を行わなければならない。 プロトタイプの製作については、接合の種類を変更することにより、ニオブ系ジョセフソン接合の高周波特性の改善を行う。その後、アンテナ結合素子として素子製作を行い、特性評価を行う。 また、薄膜型発振素子の完成時の正確な特性評価に向けて、当該年度に引き続きバルク型発振素子の放射特性を評価することにより、測定システムの性能(感度および周波数分解能)向上を行う。さらに発振機構のより深い理解を通して、発振素子の高出力化に向けた素子構造の検討およびバイアス方式の提案等を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
23年度に購入予定であった膜厚計は24年度に購入し、24年度購入予定であった自動ステージおよびボルトメータは、既に別途入手した。 そのため、次年度は予定通り薬品、真空部品、光学部品を購入し、さらに薄膜作製装置の修理を研究費により行う予定である。また、薄膜アンテナおよびニオブ系ジョセフソン接合の製作、バルク型発振素子の放射特性に関する成果を「ミリ波と赤外およびテラヘルツ波に関する国際会議」および「ヨーロッパ応用超伝導会議」で発表するため、その旅費として研究費を使用する予定である。
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