研究課題/領域番号 |
23560386
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
大森 達也 千葉大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (60302527)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 波動利用工学 / 弾性波デバイス / 可変周波数共振子 / 可変周波数発振器 |
研究概要 |
平成23年度は当該研究の開始年度にあたって、弾性表面波共振子の共振周波数可変化手法に関する原理実験に加え、共振子を可変周波数発振回路に応用する場合に問題となるスプリアス共振の軽減方法について理論的検討を行った。 スプリアス共振の軽減方法については、横モードスプリアス共振の軽減に有効とされる「重み付きダミー電極」の重み付けパターンについて、従来からの経験則によるのではなく、理論に基いた系統的設計方法を提案した。まず、弾性表面波共振子をモデル化した多層導波路内を伝搬する弾性表面波の分散特性をスカラーポテンシャル法により求め、この結果と、モード結合理論から近似される分散特性をフィッティングすることで、モード結合方程式における結合係数をダミー電極長の関数として表現することに成功した。次に、伝搬方向に対してダミー電極長が変化する導波路に対し、結合係数を場所の関数としたモード方程式を数値評価することにより、種々の重み付けパターンによるスプリアス抑圧の効果を定量的に評価した。この結果を実験と比較したところ両者は良く一致することが確認された。 これらに加えて、弾性表面波共振子を用いた電圧可変周波数発振器について基礎的な検討を行った。広い周波数可変範囲を実現するため、これまで著者らの検討してきた銅電極/ニオブ酸リチウム構造の超広帯域共振子をTwin-T回路に適用することを考えた。回路シミュレーションの結果、この構造で広可変幅のノッチフィルタが構成可能であることが明らかになった。デバイス実装上の問題から、本年度は、案構造を直接実現することができなかったが、市販の弾性表面波共振子を用いることによりUHF帯で動作するTwin-T電圧可変発振器の実現に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度は震災に伴う停電および余震により、秋頃までデバイス作製装置の一部(電子線描画装置)が安定稼動できなかったため、弾性表面波デバイスの試作・評価について遅れを生じた。このため年度前半は、優先順位を変更して、共振子設計に関わる数値シミュレーションについての検討を中心に研究実施した。特に弾性表面波共振子の横モードスプリアス抑制に有効な、ダミー電極重み付けパターンの設計指針について、体系的なまとめを行った。この成果を10月に米国で開催された国際会議にて発表した。 また、これに加えて平成24年度および25年度に実施を予定していた、共振子を組み合わせた周波数可変フィルタに関する検討、および周波数可変発振器に対する弾性表面波共振子応用に関し、一部計画を前倒しして平成23年度中に研究を実施した。周波数可変発振器については、UHF帯で動作するTwin-T回路構成について提案し、実装上の問題から市販品の弾性表面波共振子の使用に限られたものの、原理実験に成功し、その結果を研究会にて発表した。 ただし、前述した通り提案構造のたわみを用いる周波数可変弾性表面波共振子の試作に関しては遅れを生じているので平成24年度に、これの補うことを計画している。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度の特殊な状況(震災の影響)により当初の研究実施計画の順番を一部入替えたため、平成23年度に試作・評価を行う予定としていた「たわみを利用した可変周波数SAW共振子」の検討を平成24年度に優先して行うことを計画している。一方で、平成24年度以降に予定していた可変周波数共振子の回路応用や可変周波数発振回路の検討に関しては、一部先行して検討を行い、原理的な実験に成功しているので、現状の研究を継続し、更に詳細な検討を行う予定である。特に、平成24年度は可変周波数発振回路のC/N特性の評価ならびに向上にむけた検討を行うことを計画している。また、当初計画にあった通り、本提案構造そのものの応用として、温度によりたわみ量の変化するバイメタルなどの複合材料を用いた弾性表面波デバイスの温度補償についても検討を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
予算の執行に関しては、弾性表面波素子試作に関わる費用を除き、概ね当初の研究計画に従っており、平成24年度以降についても、大きな変更をせず当初計画に準じて研究費を充てる予定である。具体的には、たわみ構造の弾性表面波素子を作製するにあたり、圧電バイモルフアクチュエータ、スパッタ用ターゲット、リソグラフィ用レジストおよび電極用材料等の購入代金を消耗品費として計上している。この際、平成23年度における次年度使用費も合わせて使用する予定である。また、圧電バイモルフアクチュエータを駆動する精密電源を備品として計上する。これらに加えて、応力およびたわみの解析のためのソフトウェア購入を予定しており、これについても消耗品費を充てることを予定している。次に、可変周波数発振回路を作製するにあたり、プリント基板加工で必要となる治具類、各種電子部品等を消耗品費から充当する予定である。 なお、これらの検討で明らかになった成果の中間発表をするため、学会参加のための旅費を計上している。
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