研究課題
本研究では、細菌それ自身の示す走化性、走光性といった挙動、発光特性などを利用し、これを集積化MEMS技術によって作製したBio-MEMSチップによって検出可能で、操作が簡便な小型の細菌検出チップの実現を目標としている。今年度は、ターゲットとするレジオネラ・ニューモフィラからの蛍光を検知する受光素子の作製を行うとともに、レジオネラ・ニューモフィラの蛍光の由来を検討した。1.受光素子の作製:レジオネラ・ニューモフィラからの蛍光を検知するための、フォトゲート型光センサアレイのプロセス検討、設計、試作を行った。蛍光色素を使ってレジオネラ・ニューモフィラの蛍光を模擬し、実際の蛍光検知が可能なことを確認した。2.レジオネラ・ニューモフィラの蛍光と特異な代謝過程の発見:MEMS型マイクロ流路チップを作製し、ターゲット細菌であるレジオネラ・ニューモフィラを導入・捕獲して、レジオネラ・ニューモフィラからの蛍光について培養条件依存性を検討した。具体的には、従来の培地であるBCYEで培養した場合とバクテリオファージ中で培養した場合の蛍光を比較した。後者の培養条件は、レジオネラ・ニューモフィラが細胞内寄生をする状況を模擬した培養条件であり、マクロファージそれ自身は蛍光を発しないことを確認している。この結果、いずれの条件においても450 nm付近にピークを持つ蛍光スペクトルを得た。この事実は、バクテリオファージ中の物質をレジオネラ・ニューモフィラがBCYE構成物質に転換していることを示している。得られた蛍光スペクトルの解析から、この物質は葉酸代謝経路に関連する物質であり、蛍光を発しない大腸菌などの葉酸代謝経路とは異なる代謝系をレジオネラ・ニューモフィラが持っている可能性を強く示唆していることがわかった。本研究の目標の一つであるMEMS技術を利用した細菌行動学の創成の端緒を示しつつあると考える。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、23年度に取得した基礎データを基に、捕獲された細菌からの蛍光をとらえる光検知デバイスである受光素子の構造および作製プロセスの検討を予定通り行うとともに、捕獲チップとの一体化に向けた設計・検討も予定通り進めた。さらに、ターゲット細菌であるレジオネラ・ニューモフィラをMEMSチップに捕獲し、蛍光の由来を検討することにより、新たな代謝系の存在を示唆する結果を得ることができた。このことは、MEMS技術に創発された細菌行動学への第一歩とも言うべき成果であるため。
平成23年度、平成24年度の検討は主として、MEMS型の細菌捕獲チップとしてシリコンを主たる材料として基本データを取得してきた。このデータを基に、蛍光観測のために透明樹脂を材料としたMEMS型細菌捕獲チップの検討へと進める。受光素子については、実際のレジオネラ・ニューモフィラからの蛍光観測による受高感度等の特性取得と性能向上を目指した試作を行う。そして、透明樹脂を用いたMEMS型細菌捕獲チップと受光素子を一体化しワンチップ化する。
該当なし
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