研究課題/領域番号 |
23560395
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
土屋 英昭 神戸大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80252790)
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キーワード | ナノデバイスシミュレーション |
研究概要 |
平成24年度はグラフェンナノメッシュについて検討を行った。グラフェンナノメッシュは、グラフェンにバンドギャップを開かせる新しいナノ構造グラフェンであり、グラフェンナノリボンに比べて製造や取り扱いが簡単なためLSIへの応用が期待されている。本年度は前年度に開発した強束縛近似法を用いてグラフェンナノメッシュのバンド構造を解析し、LSIへの応用に適する幾何学的構造を見つけ出した。そしてグラフェンナノメッシュトランジスタとしての電気特性を評価し、従来のシリコンMOSFETを凌ぐ性能が実現できることを明らかにした。 一方、新概念トランジスタのベンチマーク評価に欠かせないシリコンMOSFETの高精度なデバイスシミュレータの開発を完了させた。反転層キャリアの量子化を考慮したフォノン散乱、界面ラフネス散乱および不純物散乱を取り入れたウィグナー・モンテカルロシミュレータを完成させ、バルクシリコンMOSFETの電子移動度ユニバーサル曲線の実験結果を再現できることを確認した。上記と並行して、III-V族半導体チャネルMOSFETのウィグナー・モンテカルロシミュレータの開発にも成功し、有効質量の軽いIII-VチャネルMOSFETでは比較的長いチャネル長でもソース・ドレイン直接トンネリングによるサブスレッショルド電流の増大が顕在化することを見出した。上記の知見は、次世代の低消費電力トランジスタとして期待されているIII-VチャネルMOSFETの短チャネル化限界がシリコンMOSFETよりも長いチャネル長で訪れる可能性があることを示唆しており、デバイス開発者に大きなインパクトを与えている。 また、従来の常識を覆す新概念デバイスであるナノワイヤ型ジャンクションレス・トランジスタの性能評価に向けて、原子スケールで高精度なフォノン散乱のモデル化に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
グラフェンFETの性能はグラフェンチャネルのバンド構造が鍵を握るため、ナノ構造グラフェンの幾何学的構造や原子配置の影響など、ミクロな視点からの電子状態の把握が非常に重要になる。本年度は、新しいナノ構造グラフェンであるグラフェンナノメッシュの強束縛近似バンド構造計算法を確立するとともに、その電気特性の評価を可能とするデバイスシミュレータの開発に成功している。 また、シリコンMOSFETの高精度なデバイスシミュレータの開発を予定通り完了させることができた。ナノスケールデバイスにおけるキャリア輸送を計算する際に不可欠な量子効果に加えて、フォノン散乱、界面ラフネス散乱および不純物散乱を取り入れたウィグナー・モンテカルロシミュレータが完成したことで、次世代の低消費電力デバイスとして期待されているIII-VチャネルMOSFETやナノワイヤ型ジャンクションレストランジスタの設計指針の構築に向けた研究基盤が整備できたことになる。
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今後の研究の推進方策 |
グラフェンナノメッシュおよびグラフェンナノリボンをチャネルとするグラフェンFETの性能評価をさらに推し進め、ナノワイヤFETとの性能比較を目指していく。両者とも低消費電力トランジスタとして期待されていることから、FETのスイッティング電力に相当するPDP(電力遅延積)を重要な性能指標の一つとして系統的な検討を行っていく。グラフェンに関しては、既存の半導体材料に比べて桁違いに優れた特性を持つことを利用するために、超高周波信号増幅素子としての可能性についても検討を進める。 ジャンクションレス・トランジスタの研究に取り組むため、ウィグナーモンテカルロシミュレータの3次元化を図りナノワイヤ型への適用を可能とさせる。その際、キャリアの散乱レートを1次元電子ガスに対応させることが重要となるため、フォノン散乱、界面ラフネス散乱そして不純物散乱の散乱レートを1次元電子ガスに拡張する研究を最優先の課題として取り組んでいく。また、インパクトMOSを検討するためp-i-n構造MOSFETへの対応も進めていく。III-VチャネルMOSFETに関しては界面ラフネス散乱の導入を進めていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、グラフェンFETの原子論的性能評価に加えて、ナノワイヤ型ジャンクションレス・トランジスタとIII-VチャネルMOSFETのウィグナー・モンテカルロシミュレータの開発に取り組むために、大規模な数値計算を実行できる計算機環境をさらに整備する必要がある。そのため新しいワークステーションの購入を計画している。また、本年度に得られた成果を公開するために、論文誌への投稿と国内で開催される各種学会での発表を予定しており、そのための論文別刷代と旅費を使用する計画である。
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