研究実績の概要 |
本年度は、絶縁基板上に堆積されたグラフェンの電子移動度の解析とシリコンナノワイヤMOSFETの準バリスティック輸送特性の解明を行った。グラフェンを絶縁基板上に堆積すると、基板内の光学フォノンや基板表面の荷電不純物が引き起こす外因性の散乱によってグラフェンの電子移動度は大幅に低下するが、h-BN基板の場合には100,000cm2/Vs以上の高移動度を維持することを見出した。その理由として、h-BN基板の表面に存在する荷電不純物密度がSiO2基板に比べて約1桁低いことが関係していることを明らかにした。一方、シリコンナノワイヤMOSFETの後方散乱係数を抽出することにも成功した。シリコンナノワイヤ内の1次元電子状態を反映して、オン状態ではゲート電圧の増加とともに後方散乱係数が減少することを初めて見出した。これは、従来のプレーナ型MOSFETと逆の特性を示していることから、シリコンナノワイヤMOSFETの実用化を進める際の重要な知見を与えている。 研究期間を通じて、低電圧駆動型トランジスタの有力候補に挙げられているダブルゲート構造およびナノワイヤ構造MOSFET、高移動度チャネルIII-V MOSFET、および絶縁基板上グラフェンの電子輸送特性を解明することに成功した。さらに、現在の主流技術であるプレーナ型シリコンMOSFETとの性能比較にも取り組み、上記新技術の優位性および課題についても明らかにしてきた。これらの成果は、極低消費電力LSIの実現に向けたグリーン・ナノエレクトロニクスの発展に寄与するものとして注目される。
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