研究課題/領域番号 |
23560399
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
田部井 哲夫 広島大学, ナノデバイス・バイオ融合科学研究所, 特任助教 (40536124)
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研究分担者 |
横山 新 広島大学, ナノデバイス・バイオ融合科学研究所, 教授 (80144880)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 光変調器 / シリコンフォトニクス / 表面プラズモン |
研究概要 |
提案するシリコン光変調器はSOI基板上のSOI層をコア、ゲート絶縁膜及びポリシリコン電極をクラッドとする導波路構造及びMOS構造を合わせ持っている。電圧を印加した際に形成される蓄積層または反転層は金属薄膜として機能し、SOI層内を伝播する光により表面プラズモンが励起される。表面プラズモン共鳴が起こる条件はデバイス材料の光学定数や光の波長、導波路サイズなどに依存するため、あらかじめ数値解析により共鳴が起こる適切なデバイス構造を見積もっておくことが重要である。数値解析にはウルフラムリサーチ社Mathematicaを用いた。 数値計算によりシリコン‐反転層(蓄積層)‐ゲート酸化膜‐ポリシリコンの4層構造にシリコン側から光を入射した際の反射率を解析したところ、厚さ5nmのゲート絶縁膜に対し、蓄積状態で-4.4V、反転状態で6Vの電圧で反射率が著しく低下することを確認した。この反射率の低下はTM偏光波のみに見られることから、表面プラズモン共鳴が原因と考えられる。また光変調器の伝播損失は、上述のコア/クラッド境界面での反射率と、方形導波路の光伝播解析方法のひとつであるMarcatiliの方法を用いて導出した。その結果、高さ及び幅が共に300nmのサイズで、電圧を印加しない状態で40dB/cmの伝播損失が、上述の電圧で最大3200dB/cmになることがわかった。これは長さ30umの変調器で約10dBの消光比となる。これらの解析結果により、MOS構造内部において表面プラズモン共鳴による光変調が可能であることが理論的に確認された。 以上の解析結果から表面プラズモン共鳴を起こすためには導波路のサイズを厚さ及び幅共に1um以下にすること、またゲート絶縁膜の厚さを10nm以下にすること望ましいことが分かった。これらのデータを参考に、デバイスの設計を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
試作するシリコン光変調器は表面プラズモン共鳴をベースとするものであり、表面プラズモン共鳴が起こる条件はデバイス材料の光学定数や光の波長、入射角、電圧を印加した際の自由キャリヤの密度など、多くのパラメータに依存する。また導波路伝搬光のコア/クラッド界面への入射角は導波路サイズにも依存するため、実際にデバイスを試作する前に、あらかじめ数値解析により共鳴が起こる適切なデバイスサイズを見積もっておくことが望ましい。本研究で扱う光変調器を理論的に解析するためは、半導体デバイスの物理と光導波路の解析方法を組み合わせて扱う必要があり、従来の導波路シミュレータでは解析が困難なため、自力で解析方法を考案し、Mathematicaで数値計算を行った。 現在までの数値解析により、導波路の厚さ及び幅が共に400nm前後で消光比が最大になる結果が得られている。この結果は、作製するデバイスがシングルモードの細線導波路になることを示している。細線導波路では、導波路の側壁荒れによる伝播損失が大きいため、デバイス試作の際は側面荒れを低減するようなプロセスを考慮しなければならない。さらに細線導波路内に光を入射するためにはスポットサイズ変換器が必要であり、そのサイズの最適化も必要になると考えられる。またゲート絶縁膜の厚さは10nm以下にすること望ましく、薄いほど消光比が大きくなることも分かった。以上のことから、数値解析によりデバイス試作のために必要な最小限のデータの収集は出来たと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究内容としては、主に光変調器の設計、試作、測定を行う。デバイス設計は前年度に行った理論解析のデータを元に、寸法などを決定する。レイアウトエディタはタナー社L-Editを用いる。 本研究で提案する光変調器の作製プロセスはMOSキャパシタやMOSトランジスタのものとほぼ同じであり従来のシリコン微細加工技術で行うことができるが、実際の作製の前にプロセスシートを作成しプロセス内容を十分吟味する必要がある。特に導波路作製工程では、シリコンを出来るかぎり垂直にエッチングする必要があるため、シリコンエッチングの条件出しは必須である。薄膜形成、リソグラフィー、エッチングの各技術は広島大学ナノデバイス・バイオ融合科学研究所に現有のものを利用する。デバイス作製にはおよそ2、3か月はかかると予想される。 作製したデバイスの測定方法であるが、導波路の一端から波長1.55umの光を入射させ、もう一端から出射した光を受光器にて受け取り、パワーメーターで強度を読み取る。この際、ゲートに電圧を印加して、光強度の変化を調べる。表面プラズモンによる光吸収は、印加電圧を徐々に大きくしていく際に鋭いピークとして現れることが予想される。本研究では共鳴が起こる条件を予め理論解析から見積もってからデバイス作製を行うが、実際に作製したデバイスの特性は作製プロセスにおける条件のばらつき等から理論値から大きくずれる可能性が十分にある。作製したデバイスから問題点の抽出及びその対応策を検討し、試作を繰り返すことによってデバイスの性能向上を図る。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費は主に、デバイスの作製時に必要なウェハや薬品など、消耗品の購入に使用する。デバイスの測定に必要な機器(光源用レーザーや受光素子など)はある程度すでに用意されているが、不足しているものについては新たに購入する。以下に購入予定のものを挙げる。(1)シリコンウェハ:主にポリシリコンなどの薄膜の堆積やシリコンのエッチングの条件出しなど、デバイス作製の際に必要となるデータの収集に用いる。デバイスの作製プロセスは多岐に及ぶため、条件出し用のシリコンウェハは数十枚必要と考えられる。デバイス試作に用いるSOIウェハは既に購入済みであるが、試作の繰り返しにより不足するようであれば追加で購入する。(2)実験用器具:主に石英ガラス製またはテフロン製のビーカーや冶具、ピンセットなど、デバイス作製時に必要な小道具を購入する。これらの道具はクリーン度を考慮して、本研究専用として用意する。(3)半導体用薬品:ウェハの洗浄時に使用する硫酸や過酸化水素水、薄膜のエッチング時に使用するフッ酸、水酸化テトラメチルアンモニウム、リン酸など。その他、リソグラフィー用のレジストや現像液も購入する。(4)測定用機器:主に光学測定用部品の購入に使用する。光ファイバ、偏光板、ゴニオメータ、対物レンズなど。その他、デバイスの電気特性の測定に必要なプローブ用の針なども購入する。 上記のデバイス試作・測定以外には、学会の参加費や旅費、研究成果投稿料として使用する予定である。
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