平成23年度は、磁区観察に用いるKerr効果顕微鏡の光源波長を248 nm紫外光とすることで、100 nmを切る優れた磁区観察の空間分解能が得られることを明らかにした。また、カメラの高速シャッタ制御によるストロボ法を用いて、シャッタ速度100 ns、6 kHz励磁の際の動磁区観察を実現できた。さらに、磁区観察時の磁性体の温度制御を目的として、温度制御ステージをKerr効果顕微鏡に組み込んだ。この観察システムにより、Nd-Fe-B系磁石の温度を室温から300℃まで変化させた状態での磁区観察を実現できた。 平成24年度は、前年度に構築した高空間分解能・高速動磁区観察システムを20 kOeまでの高磁界印加可能な電磁石内に組み込むことにより、高磁界中・高温中での高異方性材料の磁化過程の磁区観察が可能な観察システムを実現した。Nd-Fe-B系磁石の磁区観察を行ったところ、磁性材料の磁化反転に要する磁界は、その反転磁区の面積と大きな依存性があることを明らかにした。さらに重要なことは、雰囲気温度によって反転磁区面積が変化した結果も得られたことである。 さらに、平成25年度は平成24年度に引き続き、様々な磁気特性を有するNd-Fe-B系磁石の磁化過程の様子を観察するのに加えて、磁区の観察場所について電子顕微鏡による組成分析を行うことで、反転磁区の生成とその増大が磁性体の結晶組織とどのような関係にあるのかについて調べた。その結果、反転磁区が発生する箇所は非磁性元素の量が多い箇所であり、結晶粒内部からでも反転磁区の生成が起こることが分かった。これらより、結晶粒端部から磁化反転が起きやすいとされていたこれまでの結果に加えて、磁化反転の発生場所を制御できる新たな手法としてデバイス応用に対して非常に重要な成果が得られたことが分かった。
|