研究課題/領域番号 |
23560405
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研究機関 | 秋田県立大学 |
研究代表者 |
能勢 敏明 秋田県立大学, システム科学技術学部, 教授 (00180745)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | ミリ波 / 液晶 / 位相変調器 / マイクロストリップライン / フェーズドアレイアンテナ |
研究概要 |
本研究のキーとなる液晶ミリ波位相変調器の実現を目指してデバイス構造の最適化を行った。目指す位相変調器は、CPW基板を用いたデバイスにおける集積化の容易性を維持しながら、MSL基板を用いたデバイスと同等な優れた位相変調特性を併せ持つ事を特徴とする。このとき、通常のMSL誘電体基板中を伝搬するミリ波を上部へ積層した液晶層部分へ導く、変換回路が重要になる。これまで、スルーホールを配置した基本構造の設計を行い10GHz程度までの動作を確認しているが、ミリ波帯での動作は実現されていなかった。 そこでまず初めに、高い周波数帯での動作を目指して、変換回路部分を中心とする最適化を行った。その結果、これまでの常識とは逆にスルーホールを信号線に近づける方が良好な特性が得られる事が分り、動作周波数の高周波化と同時に小型化も可能になる素子構造を見出した。実際に、液晶層部分の長さが10mm程度の位相変調器を作製し、透過損失および位相変調特性を測定した。その結果、高い周波数帯における急激な透過率の低下が抑制され、ミリ波帯付近における透過率の値は大幅に改善された。位相変調特性に関しては、10GHz付近までを比べた場合には以前と同程度の変調量が得られている程度であるが、透過損失の低下に伴い40GHz以上までの動作が確認され、動作周波数の大幅な向上が達成された。 こられの結果を基に、位相変調量の拡大を目指してメアンダー構造を導入した素子設計を行い、50mmの長い変調器長を実現する事により50GHzで360°以上の位相変調量を達成した。しかし、変調量の総量は大幅に増えたものの、単位長さ当たりの変化量が低下する問題が明らかになると共に、損失の問題も顕著になり、フェーズドアレイアンテナ等の実際のシステムに組み込む為に更に解決すべき課題も明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究のキーとなるミリ波位相変調器における基本素子構造の最適化により高周波動作を目指した。その結果、最低目標の30GHzを上回る40GHz以上でのミリ波帯における良好な位相変調特性が達成された。位相変調量と損失の兼ね合いからデバイス性能を評価すると、CPW型およびMSL型含めてこれまでに発表されている液晶位相変調器の中でも最も優れた性能のレベルに達していると思われる。今後、素子の損失の更なる低減と優れた液晶材料の導入によって、現時点での世界最高性能を実現できる可能性を期待させる成果が得られている。これは、今後の実際のシステム構成における設計の自由度を確保する上でも有用な成果でもある。
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今後の研究の推進方策 |
ミリ波位相変調器の基本構造の設計指針は明らかになった事から、実際に必要な位相変調量を確保するためのメアンダー構造の導入およびアレイ化の検討へと、新たな研究フェーズへ展開させる。予備実験によると、メアンダー構造の導入によって単位長さ当たりの位相変調量が低下する問題が示唆されている事から、ガラス基板を用いて同じ構造の液晶セルを作製して素子内部における液晶分子の配向状態を詳しく調べる必要がある。 また、デバイス性能が向上すると共に、最終的な位相変調特性を制限する液晶材料自身の最適化の重要性も顕著になっている。今後、様々な液晶材料の可能性を探索しながら性能の向上を試みると共に、全く新しい液晶材料の開発を念頭に置いて材料合成を得意とする液晶研究者との協力関係も重要になって来ると思われる。そこで、ミリ波帯における液晶材料の簡便な評価方法を確立して置く事も重要になる事から、Si基板を用いた平板回路を利用した新しい測定手法の開発に着手する予定である。 以上の取り組みの進展状況を踏まえながら、アンテナアレイと液晶位相変調器の集積化を試みる。初めに、集積化に伴って生じる新たな課題を明らかにする事が重要になる。現時点で明らかに分っている課題として、アレイ化した液晶位相変調器を独立に駆動するための電極構造の設計が挙げられる。
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次年度の研究費の使用計画 |
今後も、液晶素子の作製および高周波測定において高周波回路用の様々なパーツおよび液晶材料が必要になり、それらへの支出が大きな割合を示すと考えられる。 また、今後の展開を踏まえてSi基板を用いたミリ波帯における新しい液晶評価法の検討も始める事から、測定システムを整備するために備品の一部を購入する経費が必要になると思われる。 一方、本研究では液晶のミリ波応用の観点から当該分野における顕著な成果が得られており、国内外における国際会議や学術講演会において成果発表を行う為の旅費を支出予定である。
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