研究課題/領域番号 |
23560427
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研究機関 | 神戸市立工業高等専門学校 |
研究代表者 |
荻原 昭文 神戸市立工業高等専門学校, 電子工学科, 教授 (00342569)
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研究分担者 |
垣内田 洋 独立行政法人産業技術総合研究所, サステナブルマテリアル, 研究員 (40343660)
吉村 和記 独立行政法人産業技術総合研究所, サステナブルマテリアル, 研究員 (50358347)
小野 浩司 長岡技術科学大学, 工学部, 教授 (10283029)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 液晶 / 高分子 / レーザ / 温度 |
研究概要 |
本研究課題では、有機複合体材料に対して新たに発散や収束などを含む波面制御機能を付加することが重要となる。このためには、これまでの平行光のみの干渉実験ではなく、物体光として空間的な位相制御情報を与えることが必要である。 当該年度は、2光束のレーザ干渉計に空間光変調素子(SLM)を導入して、空間的な波面制御を行わせるためにコンピュータからの駆動信号によって、空間的に任意の波面を形成できる光学系を構築するための実験を行った。参照光と物体光からなる2光束干渉系に対して、物体光に相当する光束内にSLMを配置し、レーザ照射する全面積に対し一部の領域にのみ入力信号を印加して偏光状態を変調し、干渉縞の出来る領域の制御を試みた。この領域を観察しやすくするため、アルファベットのFの形に領域を形成するようなSLMへの入力信号制御を行った。 この光学系において、低温(35℃)と高温(80℃)に転移温度を有する液晶材料を用いて形成したデバイスに対して、デバイスの温度を室温から100℃程度の高温まで変化させながら、デバイス内部の屈折率変調によって生ずる回折作用をパターニングによって形成された画像パターンを検出することで観察した。 この結果、液晶材料の転移温度と画像が観察される閾値温度が対応していることが観測された。これはデバイス内部の液晶の相転移に伴う屈折率変化によって格子構造の状態が変化することで回折作用が生じているものと考えられた。さらに、液晶分子のアンカリング力を含む配向の効果の検証のためにラビング処理を導入してデバイスを作製し、液晶・光重合性液晶モノマー複合体への配向制御により入射光の偏光状態の依存性がp偏光、s偏光と異なることが判明し、異方性屈折率変調機能についても明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題に対して当該年度では、有機複合体材料に対して新たに発散や収束などを含む波面制御機能を付加することが重要となるために、これまでの平行光のみの干渉実験ではなく、物体光として空間的な位相制御情報を与えることを計画した。このような空間的な波面制御を行わせるためのコンピュータからの駆動信号によって、空間的に任意の波面を形成できる光学系を構築するために空間光変調素子を導入した光学系を構築し、液晶・高分子複合体材料に対して干渉計の偏光変調に伴うパターン形成を行うことが出来た。このため、当初計画していたように、空間領域の波面制御によるパターニングの効果を実証することが出来たと考える。 さらにデバイスの開発を進めるために、これまでの感温型デバイスの特性評価のための温度変化に対する分光光学測定用に小型のスペクトロメータを導入したシステムの構築を計画に沿って進めてきた。
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今後の研究の推進方策 |
今後さらに研究を進めるためには、平成23年度に得られた結果を基にして、デバイス内に三次元的な複雑な微細構造の形成技術を確立する必要がある。このためには、液晶・高分子材料を用いて形成した異方性媒質に対する三次元構造の分析評価を詳細に行っていくことが重要であると考えている。具体的には、デバイスの内部に形成される液晶と高分子からなる格子構造間の屈折率やこれに影響を与える液晶分子の配向挙動を含めた理論的な解析のため、異方性回折の光学特性の実験的評価と回折特性に関する理論式とを関連させて解析を進める計画である。さらに共同研究先の産業技術総合研究所と連携して、作製したデバイスの電子顕微鏡観察などを実施して、傾き角などを変化させた場合の格子構造と液晶の分子配向による異方性屈折率などの関係を明らかにしながらより高度なデバイス設計・形成に基づいた研究を効率的に実行していきたいと考えている。 また、光重合性液晶モノマーとネマティック液晶との複合体に対し、レーザ干渉による三次元構造を形成すると、温度増加に共にN-I遷移に伴う屈折率変化を大きくできることがわかってきた。この光重合性モノマーは、基板表面への配向膜とラビング処理により、液晶分子の配向方向を制御することが可能と考えられる。配向膜の種類とラビング方向を変化した基板を用いてデバイス形成を行えば、液晶の分子方向を自在に制御できる可能性がある。液晶分子は、常光と異常光とに大きな屈折率異方性を有している。このため、液晶分子方向を変えることで、格子間の屈折率変化を広い範囲で制御可能である。この手法を使って液晶・光重合性液晶モノマー複合体への配向制御による異方性屈折率の最適化に取り組むことで感温型デバイスの光制御の高機能化を図る計画である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、デバイスに作製において液晶分子の挙動を含めた三次元構造形成についての実験及び解析を進める予定である。これには高分子材料として等方性モノマー材料や光重合性液晶モノマーのような異方性材料などの有機複合体材料を用いたデバイス作製とこれらの偏光異方性解析などを行っていく必要がある。このための材料や、光学特性の測定結果を基にした理論解析などのための計測制御及びデータ収集用のソフトウエアの購入などを行う必要がある。さらに研究を展開するためには、開発した感温型デバイスの有効性を飛躍的に高めるためのフレキシブル基板上へのデバイスの形成実験について検討する必要があり、新たに使用するフィルム材料や、液晶・高分子複合体材料をフィルムデバイス上に均一に塗布するための滴下用の実験装置などの導入準備を進めていきたい。 デバイスのフィルム上への形成が可能になれば、既存の部材や設備との組み合わせが容易になり、エネルギー問題の解決のために広く社会に普及させることが可能なフィルム型デバイスが開発可能となる。さらに、これまで行ってきた研究によって得られた理論解析や実験結果を取りまとめ、国際会議での発表や論文投稿を行うことで研究成果を広く社会にアピールしていくためにも研究費を使用していきたいと考える。
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