研究課題/領域番号 |
23560427
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研究機関 | 神戸市立工業高等専門学校 |
研究代表者 |
荻原 昭文 神戸市立工業高等専門学校, その他部局等, 教授 (00342569)
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研究分担者 |
垣内田 洋 独立行政法人産業技術総合研究所, その他部局等, 研究員 (40343660)
吉村 和記 独立行政法人産業技術総合研究所, その他部局等, 研究員 (50358347)
小野 浩司 長岡技術科学大学, 工学部, 教授 (10283029)
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キーワード | 液晶 / 高分子 / レーザ / 温度 / ホログラム |
研究概要 |
平成24年度は、デバイス内に三次元的な複雑な微細構造の形成技術を確立するための研究を行ってきた。具体的には、感温型デバイスの温度制御に必要となるN-I点の異なる液晶材料や、異方性屈折率の大きく異なる光重合性液晶モノマー等の高分子材料を導入して実験を進めた。内部での液晶の配向性について異方性を考慮した回折効率理論を導入した解析評価も併せて試みた。 格子構造の形成については、プリズムと感温型デバイス作製用のガラスセルとの表面のオプティカルマッチングを試みることで、レーザの干渉角度を90度と大きな入射角度で行うことができた。この時の格子間隔は、0.25μmとなり、これまでの1μm程度の格子間隔に比べて1/4程度の微細化に成功した。デバイス内部の異方性屈折率分布について、x,y,z方向の三次元分布を求めることを試みた。これには、回折効率の入射角度依存性の実験結果に対して、p偏光、s偏光に対する効率の理論値との比較を行うことで内部の屈折率差の三次元分布を求めることを試みた。格子構造が基板に対し、垂直方向に形成されるノースラント型のような場合は、x方向と膜厚方向であるz方向との液晶の配向の対称性を仮定することで実験値と理論値とをほぼ一致させることができた。さらに、格子構造が基板に対して傾いて形成されるノースラント型のような場合には、理論計算との対応のためには、z方向での屈折率分布に対して条件の付与が必要であることなどがわかってきた。 さらに、液晶の異常光屈折率(ne)と常光屈折率(no)との差である異方性屈折率の小さいネマティック液晶と光重合性モノマーとを組み合わせることで、液晶材料の相転移点以上であっても50%以上の異方性回折効率を有する回折格子の形成と、この材料系を用いた光パターン情報の記録と再生が可能であることを確認することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
感温型デバイスへの光制御機能を開発していくためには、内部に形成される屈折率分布からなる三次元構造を微細化することでより大きな入射角度に対しても回折機能を発現させることができる。H24年度には、プリズム等を用いた液浸を導入することで空気中からでは従来ガラスセル内に入射させることができなかった大きな角度までのレーザ露光入射を行い、微細な三次元格子構造を形成することができるようになった。またこれら作製したデバイス内部の液晶の配向状態などの解析のため、偏光異方性を付加した回折効率の理論式を適用し、レーザを用いた回折効率測定と分光器を用いた測定とを比較検討しながら理論と実験の両面から検討を進めてきた。これらの結果、内部の物性パラメータ等の定量的な評価が可能になると共に、内部の微細構造を電子顕微鏡での観察を行うことで実際に微細な格子間隔からなる三次元構造が作製できていることを確認した。 温度依存性については、これまで液晶のネマテックーアイソトロピック相転移(N-I)温度の特性値に着目して材料選択等を行ってきたが、光重合性液晶モノマー材料とネマテック液晶からなる有機複合体材料を用いた場合、液晶の転移温度だけに寄らず回折効率の温度依存性を制御できることがわかってきた。この材料系を用いることでN-I点を超える温度においても回折効率の偏光依存性が維持できることを確認することができ、今後感温型デバイスの光制御機能開発に新たな応用可能性を示すことができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまで感温型デバイス内に三次元的な複雑な微細構造の形成技術を確立するための研究を行い、感温型デバイスの温度制御に必要となるN-I点の異なる液晶材料や、異方性屈折率の大きく異なる光重合性液晶モノマー等の高分子材料を導入した実験と、内部での液晶の配向性について異方性を考慮した回折効率理論を導入した解析評価の両面から研究の進捗を図ってきた。これらの結果、回折効率の実験値と理論値との対応のためには、作製時のレーザの入射角度に対応する格子間隔や格子の形成方向などの要因が影響することがわかってきた。 デバイス内部の三次元的な複雑な異方性屈折率分布については、これまで定量的に評価するのは難しく、液晶の対称性モデルなどを導入して解析を行うことが多かった。しかしながら、これまでの実験・解析での進捗に基づき、回折効率の入射角度依存性の実験結果に対して、p偏光、s偏光に対する効率の理論値との比較を行う場合、外部からの電界等の印加により液晶を強制的に配列させ、この時の回折効率の偏光依存性と、理論式とを対応させれば、内部の異方性屈折率差の三次元分布である厚さ方向のzの値を独立に特定できる可能性がわかってきた。 今後は、外部からの電界印加やデバイス作製時の配向制御等の導入を組み合わせて光学特性に影響を与える内部の物性パラメータの解明を進めていきたいと考えている。これまでの研究結果による知見を基づく新たな実験方法を導入しながら、より詳細にデバイスの情報を捕え、これらの研究成果を感温型デバイスの新たな光制御機能として展開する計画である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、本件研究の最終年度にあたり、これまでに行ってきたデバイス内部の三次元微細構造形成における液晶分子の挙動などの解析を進めると同時に、これらのデバイスの光学特性を感温型デバイスへと展開するための最終的な検討を行っていく計画である。これには高分子材料として等方性モノマー材料や光重合性液晶モノマーのような異方性材料などの有機複合体材料を用いることと、レーザ光学系をフレキシブルに変化させるための光学系構築が必要となる。 光重合性液晶材料としては、最近、屈折率が1.7以上の材料の入手が可能になってきており、当初は年度内でのこれらの材料の入手を計画していたが、実際には年度中での入手が難しくなり、これらの充当に予定していた研究費の支出を翌年度に繰り越すこととなった。次年度に繰り越し分を含めてこれらの有機複合体材料の購入と、プリズム等を導入したレーザ光学系のために研究費を使用してデバイス作製を行うことでさらなる光学特性の向上が期待できると考える。さらに、作製したデバイスの内部観察や偏光異方性解析などの結果を効率的に整理して、データの有効活用を行うためには、光学特性の測定結果を基にした理論解析などのための計測制御及びデータ収集用のソフトウエアなどが必要になると考えられる。また、エネルギー問題の解決のために広く社会に普及させることが可能なフィルム型デバイス材料への応用などへも研究費を充当したいと考える。 研究の最終年度において、これまで行ってきた研究によって得られた理論解析や実験結果を取りまとめ、研究成果を広く社会へと情報発信していきたい。このためには、海外で行われる専門性の高い国際会議への参加や、国際的なジャーナルへの論文投稿などを積極的に行うことへも研究費を計画的に有効に使用していきたいと考えている。
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