研究課題/領域番号 |
23560429
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研究機関 | 秋田県産業技術センター |
研究代表者 |
山根 治起 秋田県産業技術センター, その他部局等, 研究員 (80370237)
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キーワード | 磁性フォトニック結晶 / 磁気光学効果 / 反強磁性結合 / 垂直磁化膜 / CoPt / 微細加工 |
研究概要 |
本研究課題では、反強磁性結合を有する垂直磁化積層膜に対して、ナノレベルでの周期的な一次元の積層構造および二次元の微細加工を施すことで多次元の磁性フォトニック結晶の実現を目的としている。これにより、可視光領域の短波長光に対して実用的な光変調性能と既存の製品に比較して1000倍以上の超高速動作とを合わせ持つ革新的な空間光変調素子が実現可能となる。本研究の成果は、次世代の大容量光ディスクとして期待されているホログラム光情報記録システム、あるいは、光の並列性・高速性を活かすことで情報の飛躍的な演算処理能力の向上が期待できる光情報処理システム等の飛躍的な性能向上に繋がるものである。 多次元の磁性フォトニック結晶と反強磁性結合体との組み合わせによる磁気光学性能の向上を目的とした本研究はこれまでに無い新たな取組みであり、今年度は特に、昨年度に構築した磁気光学特性の評価システムを用いることで、反強磁性結合を有する2次元周期ナノ構造体の磁気物性の把握に注力した。電子線描画装置およびArイオンエッチング装置により作製した2次元周期構造を有する[CoPt/Ru/CoPt]反強磁性結合体では、100nm程度の微細加工後においても厚さが数原子程度のRu層を介した反強磁性結合が維持可能であることが確認できた。特に、周期的なナノホール構造に対しては微細加工による磁気特性の変化も少なく、磁性フォトニック結晶として有用であることが分かった。 さらに、昨年度に見出した[CoPt/ZnO/Ag]積層膜における磁気光学性能の増大に関しては、挿入層としてZnO以外の材料との比較、あるいは、反射率などの光学物性等に関する更なる検討を行い、学術論文として報告した。本内容に関しては、可視光領域での特性改善を目的として、局在プラズモン効果を利用した新たな取り組みについても次年度に計画している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究での開発を目標としている磁気光学効果を用いた光変調素子では、入射光の偏光角を磁性体の磁化方向によって変化させることで、その後に偏光板を透過する光の強度を制御する。したがって、高性能の光変調素子の開発には、使用する波長の光に対して大きな磁気光学効果を有する材料の開発が不可欠である。昨年度は、磁性フォトニック結晶の実現を目標として、磁性金属膜に対して100nmレベルで2次元の周期ナノ構造を付与することが可能な微細加工技術を確立すると共に、[CoPt/ZnO/Ag]積層膜において、紫外光領域での偏光角を目標値である±1度以上に増大することができた。 本年度は、実際に、2次元周期構造を有する[CoPt/Ru/CoPt]反強磁性結合体を作製し、微細加工後においても厚さが数原子程度のRu層を介した反強磁性結合が維持可能であることを確認した。特に、周期的なナノホール構造においては、微細加工による磁気特性の変化も少ないことが分かり(山根他、第73回応用物理学会学術講演会)、積層構造体と組み合わせた磁性フォトニック結晶に関する検討を次年度に計画している。 一方、[CoPt/ZnO/Ag]積層膜に関しては、Ag下地層およびZnO挿入層を他の材料と比較することで性能向上の要因解明を図った。その結果、磁気光学特性の改善は、Agのプラズマ共鳴とZnOのバンド間遷移との相乗効果であること、また、垂直磁気特性の改善は、[CoPt/ZnO]積層界面での電子状態が起因している可能性が見出された(H.Yamane, Appl. Phys. Lett. 102)。本研究内容に関しては、可視光領域での特性改善を目的として、局在プラズモン効果を利用した新たな取り組みについても次年度に計画している。 以上、本研究に関しては、当初の目標通りおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、本年度に得られた成果を基にして、空間光変調素子として実用化が期待できる磁気光学性能(±10度以上の偏光角)を目標に研究開発に取り組む。具体的には、反強磁性結合を有する積層構造体に二次元の周期ナノ加工を施すことで多次元の磁性フォトニック結晶構造を実現し、これにより磁気光学効果の大幅な増大を図る。また、本研究課題にて見出した[CoPt/ZnO/Ag]積層膜における磁気光学性能の向上に関しては、局在プラズモン共鳴を利用した新たな取り組みも実施する。特に、Ag下地層のへ微細加工あるいは作製方法等の検討によりAgナノ構造体を作製し、磁気光学効果における局在プラズモン共鳴を利用することで特性の更なる改善を図る。さらに、本研究課題では、現在製品化されている空間光変調素子に比較して1000倍以上に相当する10ナノ秒以下の超高速動作の実現を最終的な目標としていることから、駆動方式あるいは素子構造に関する検討にも取り組む予定である。 なお、最終年度であることから、これまでの研究成果を学術論文および国際会議等の国内学会にて積極的に発表していく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費に関しては、今後の研究の推進の方策にて記述した研究内容を遂行するための物品購入に充てると共に、最終年度であることから、これまでの研究成果を学会および論文にて積極的に発表していくための費用として使用する予定である。研究費の主な使用計画は以下の通りである。 物品費:80千円(基板、レジスト等の試料作製用消耗品)、旅 費:300千円(国際会議2件、学会発表1件)、その他:100千円(論文投稿2件)
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