研究課題/領域番号 |
23560431
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研究機関 | 独立行政法人情報通信研究機構 |
研究代表者 |
牧瀬 圭正 独立行政法人情報通信研究機構, 未来ICT研究所 ナノICT研究室, 専攻研究員 (60363321)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 超伝導デバイス / 超伝導薄膜 / 窒化物 |
研究概要 |
量子通信や量子光学の分野では、半導体デバイスを越える新たなデバイスが求められており、超伝導現象に基づく超伝導デバイスは大きな役割を果たすものと期待されている。我々は超伝導転移温度が15K をもつ窒化物超伝導体の窒化ニオブ(NbN)、窒化ニオブチタン(NbTiN)薄膜に注目し、それらの薄膜について、電気輸送特性、高周波特性等を明らかにし、高性能超伝導デバイスへの応用で必要となる材料パラメータを抽出、物性制御することで薄膜の最適化を行うことが目的である。今年度はNbN,NbTiN 薄膜の成膜や超伝導性に関して膜の結晶構造、組成分析や輸送特性の評価等に加えてスパッタリング条件等の成膜条件の最適化と再現性の評価を行った。その結果、厚さ数nmのNbN超薄膜の物性評価では、膜の乱れの効果によって、超伝導転移温度を顕著に低下させることが実験と理論を検証することで明らかになった。具体的にはNbNの超薄膜を作製し、磁場中の電気抵抗測定とホール効果の実験から、電子の平均自由行程等を見積もり、さらに面抵抗と超伝導転移温度の関係を調べた。この結果は超伝導超薄膜のデバイスを作製する上で貴重な知見となることが予想される。さらに電気輸送特性の結果から電子拡散係数、コヒーレンス長等のデバイスを作製する上で必要とされる超伝導パラメータの抽出も行った。次に比較的厚いNbTiN 膜において膜中の窒素濃度が超伝導特性のみならず膜応力等の機械的特性にも強く影響を及ぼすことをEDS やWDS による分析によって明らかにした。膜応力の最適化は超伝導トンネル接合特性を得る上で、接合の優劣を決める。今後はこれらの評価結果をもとにトンネル接合の作製に着手し、デバイス評価も行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定した研究計画ではNbN膜とNbTiN膜の作成条件の最適化と再現性である。まず基板の選定では溶融石英、シリコン、サファイア、酸化マグネシウム基板の数種類において成膜評価を行った。その結果、NbNは酸化マグネシウム基板上で成膜することで基板加熱をせずともエピタキシャル成長し、平滑性にすぐれていることを原子間力顕微鏡や透過型電子顕微鏡、X線回折等から明らかにすることができた。成膜には反応性DCスパッタ法を用いているが、反応ガスとなる窒素のチャンバー内の分圧を調整することで、転移温度と膜の平滑性の両者を制御し、その特性を再現できることが分かった。この点に関しては計画通り進展している。さらにこれらの膜に関してトンネル接合デバイスの作製、評価も始めており、良好なデバイス特性を持つトンネル接合の作製もできており、当初の計画以上に進展している。さらにNbN超薄膜において、電子の平均自由行程が膜厚に対してほぼ等しく変化する膜も作製できており、これに関しても当初の予定より進展している。また高周波応用に関しては基板の誘電率の関係上、酸化マグネシウム基板よりも溶融石英基板が最適である。しかしながら石英基板上でNbN膜を作製したところ多結晶膜であり、抵抗率が高く、転移温度も低いので、デバイス応用に関しては、不向きであることが分かった。そこでNbTiN膜を溶融石英基板上に成膜した。NbTiN膜も溶融石英基板上では多結晶膜として成長するが、NbNに比べて抵抗率が低く、転移温度の高い膜が作製できた。スパッタターゲットのNbとTiの組成を固定しているので組成を変えたときの膜の物性に関する点に関しては不明な点が多く、早急に明らかにする必要がある。この点は当初の計画より若干遅延しているが測定系の構築で進展できると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度に得られた結果を基にして、構築した測定システムで抵抗の温度依存性の測定やホール係数測定を継続して実施し、超伝導転移温度、臨界磁場、キャリア数等の物性パラメータの詳細を明らかにする。測定システムの構築で必要とされる制御ボード等の購入を行い、迅速に測定システムの自動化を行う。超伝導デバイスへの応用も見据えて評価を効率的に行うために、実際にNbN,NbTiN 膜を用いてSIS 接合を作成して電流―電圧特性を測定し、その結果をもとに成膜条件にフィードバックさせることを行う。デバイスプロセスはエッチング、リフトオフ、積層化を行う。これらの過程においても、綿密な条件だしが必要となる。条件出しが不十分であるとオーバーエッチング、接合不良等の問題を招き、デバイス作製ができない。そこで、まず良好なデバイス作製条件の探索を行う。デバイス評価は表面観察や電流―電圧特性から得られるデバイスパラメータ(ギャップ電圧、quality factor、臨界電流)によって行う。NbN膜のSIS接合に関しては順調に進展しているが、NbTiN膜はまた物性評価が不十分である。NbTiNのSIS接合作製のために、NbTiN膜の物性パラメータの抽出を重点的に行う。また超伝導単一光子検出器の基礎物性の理解のため、前年度までに得られた結果を基にNbNおよびNbTiN超伝導ナノワイヤーを作製し、その物性評価を行う。具体的には磁場中の電気輸送特性を調べる予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
測定に関しては、測定が長時間に及ぶため、システムの自動化も必要である。現時点でシステムの一部分に関しては所属する機関のシステムを使っている。システムを共有することになるので、時間的制約が大きく、長時間の占有は難しい。そこで独自でシステムを構築のための制御ボード等を購入する。さらに測定試料のサイズに合わせた基板ホルダー用材料、伝送線等が必要であるため、それら消耗品の購入のため予算の計上を行う。本研究課題で、基板の選定が重要であることがわかった。特にエピタキシャル膜の成膜には配向した、純度の高いMgO基板が必要である。基板に関しては、所属機関内で作製すること困難であることから外部より購入する予定である。超伝導転移は極低温で観測される。そのため本研究課題では液体ヘリウム、液体窒素等の寒材が必要不可である下で測定しなければならないので必要である。液体ヘリウムの購入を行う。さらにこれまでに研究で得られた成果について、日本物理学会、応用物理学会等の研究会議について発表し、論文投稿を行う予定である。そのための学会参加費、旅費および論文投稿料等に予算を使用する予定である。
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