研究課題/領域番号 |
23560446
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
徳田 功 立命館大学, 理工学部, 准教授 (00261389)
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研究分担者 |
本間 さと 北海道大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (20142713)
福田 弘和 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (90405358)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | サーカディアンリズム / 視交叉上核 / 同期 / 自律振動 / ネットワークダイナミクス |
研究概要 |
約24時間の周期性をもつ概日時計は、バクテリアからヒトまでの幅広い生物に対して高精度の日内リズムを付与している。哺乳類では、視交叉上核(SCN)に時計中枢があり、数万個の神経細胞が集団同期することにより、正確でロバストなリズムを刻むことが分かっている。これらの不均一でノイジーな細胞群が、どのようなネットワーク機能によって強靭な時計機能を獲得するのかを探るため、以下の研究を行った。(1) 時計遺伝子Per2発現レポーターを導入したトランスジェニックマウスのSCNスライス培養系に対し、時計遺伝子発現リズムを分子イメージング法を用いて計測した。これらのデータに対して、位相方程式による細胞集団のネットワークモデルを構築し、詳細のシミュレーション解析から、局所結合による近隣細胞同士の興奮伝搬が、SCNでみられる位相波の起源であることを示した。(2) Cry遺伝子欠損マウス(Cry1-/- Cry2-/-マウス)のSCN分散培養データに対してデータ解析を行い、野生型との比較を行った。特に、計測データから自律振動子のパラメータを推定することによって、個々の細胞の周波数分布、振幅、ノイズ等の特徴量を抽出したところ、野生型に比べて遺伝子欠損マウスでは、周波数分布が大きく広がり、ノイズレベルが有意に増加することを確かめた。これらの単一細胞モデルを集団結合することによってネットワークを構築したところ、スライスレベルでは同期が起こらず、光刺激によるLDサイクルに対しては幅広い周期に引き込まれることが分かり、Cry遺伝子欠損マウスの行動リズムを理解する上で重要な知見を得た。(3)シロイヌナズナの時計遺伝子の発現ネットワークの分子モデルを用い、植物遺伝子発現データを定量的に最も正確に記述できる数理モデルを同定した。特に、実験で測定された位相応答曲線を再現できるようなパラメータを最適化法により求めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分子生物学的手法と発光イメージング技術の進歩により、概日時計の動作が分子・細胞レベルで計測可能となった一方、それらのデータを正確に分析し、数理モデルへと活用する研究は立ち後れている。生物リズム研究における実験と理論の恊働をはかるために、橋渡しとなるデータ解析の基盤技術を整備することが本プロジェクトの目的の一つである。このような目的に対して、23年度の研究では、SCNスライス培養データの位相変動を視覚化する技術を開発し、さらに分散培養データから振動モデル係数を推定して、ネットワークシミュレーションに応用するプロトコルを作成した。これらの成果は、初年度の達成度としては順調と思われる。さらには、本プロジェクトの最重要な目的である、計測データを定量的に再現する数理モデルにもとづいて、時計機能を理解するという点においても、位相波の起源に対する一つのシナリオを提示した。遺伝子欠損マウスのリズム異常についても、単一細胞レベルの振動特性が本質的な原因になっていることを、予備実験的に確認している。この意味でも、一定の成果が得られている。生物リズムの制御については、植物リズムを中心として今後検討してゆくテーマであるが、残りの研究期間でじっくりと取り組むことが可能であると考える。以上のことから、概ね順調と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
計測データから定量モデルを構築する基盤技術をより包括的に整備し、それによって得られた数理モデルに基づいて、生物リズムの動作原理を理解し、リズム制御への応用を目指す。以下の項目に取り組む。(1) 23年度の研究で同定されたCry遺伝子欠損マウスのデータ解析をさらに推進する。特に分散培養データの解析に用いる個体数を増やし、統計的により信頼性の高い結果を得る。また、スライス培養データの定量解析も行い、細胞個体と細胞集団との振動特性の差を高精度にモデル化する。特に、細胞集団の同期能力、外部入力に対する同期能力、環境の変化に対するロバスト性に着目する。このことによって、遺伝子欠損マウスのリズム消失が、細胞単体の問題に起因するのか、あるいは細胞集団のネットワーク機能の影響があるのかを明らかにする。得られた結果に基づいて、Cry 1,Cry2タンパク質の時計機能について考察する。(2) 23年度に行った野生型SCN培養データにおける位相波のモデルでは局所結合を用いたが、固有周波数の空間分布および細胞間結合の詳細構造を考慮にいれて、より包括的なモデルを構築し、位相波の最大の要因を追求する。(3) シロイヌナズナの時計遺伝子系に対して、実験データを定量的に再現できる数理モデルを同定する。前年度の推定方法では計算に不安定性があったため、この問題を解消し、より精度の向上をはかる。同定された数理方程式および位相応答曲線に基づいて、光サイクルに対する引き込みを最も効率化するように、光の制御方法を、照射時間、光の波長などにわたって詳細に設計する。最終的には、最適制御手法を植物で実験検証することを目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
Cry遺伝子欠損マウスのデータ解析結果を発表し、専門家との意見交換を行うため、SRBR会議(Meeting of the Society for Research on Biological Rhythms, Destin, Florida, May 19-23, 2012)に参加し、研究発表を行う。さらには、共同研究者である本間さと教授および福田弘和博士と定期的に議論をするため、札幌および大阪へ出張する際の旅費に使用する。必要に応じて適宜、コンピュータ部品などを購入する。
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