研究課題/領域番号 |
23560446
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
徳田 功 立命館大学, 理工学部, 准教授 (00261389)
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研究分担者 |
本間 さと 北海道大学, 医学研究科, 特任教授 (20142713)
福田 弘和 大阪府立大学, 工学研究科, 助教 (90405358)
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キーワード | 同期 / サーカディアンリズム / 視交叉上核 / 制御 / ネットワークダイナミクス |
研究概要 |
約24時間の周期性をもつ概日時計は、バクテリアからヒトまでの幅広い生物に対して高精度の日内リズムを付与している。哺乳類では、視交叉上核(SCN)に時計中枢があり、数万個の神経細胞が集団同期することにより、正確でロバストなリズムを刻むことが分かっている。これらの不均一でノイジーな細胞群が、どのようなネットワーク機能によって強靭な時計機能を獲得するのかを探るため、以下の研究を行った。 1. Cry遺伝子欠損マウス(Cry1-/- Cry2-/-マウス)のSCN分散培養データおよびスライス培養データに対し、概日リズムを計測した。これによって、欠損型でも細胞レベルではリズムが存在し、ただし細胞同士の同期が弱いために、出力が弱まっていることが分かった。また、新生児期からの発達段階で、同期の様相が変化し、結合様式が変化していることが示唆された。 2. 1.の分散培養データに対してデータ解析を行い、野生型との比較を行った。特に、計測データから自律振動子のパラメータを推定することによって、個々の細胞の周期分布、振幅、ノイズ等の特徴量を抽出したところ、野生型に比べて遺伝子欠損マウスでは、周期の分布が広がり、ノイズレベルが有意に増加し、減衰振動特性が強まることを確かめた。このような特性を説明するための、時計遺伝子の転写翻訳モデルを細胞毎に結合したモデルを構築し、結合によって、同期が引き起こされるのみならずリズム自体も強化されることが分かった。 3. シロイヌナズナに対して暗期パルスを複数回加えることによって、同期の制御を行った。特に、実験で測定された位相応答曲線を用いて、特定の位相にパルスを段階的に照射することによって、同期を効果的に崩す(特異点の出現)、あるいは回復できることを実験および数値計算で示した。位相応答曲線を用いるこの方法は、多様な概日リズムを制御する新しい枠組みとして期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
分子生物学的手法と発光イメージング技術の進歩により、概日時計の動作が分子・細胞レベルで計測可能となった一方、それらのデータを的確に分析し、数理モデルへと活用し、実験にフィードバックする研究は立ち後れている。生物リズム研究における実験と理論の恊働をはかるために、橋渡しとなるデータ解析の基盤技術を整備することが本プロジェクトの目的の一つである。このような目的に対して、23年度および24年度の研究では、SCNスライス培養データの位相解析を行い、また培養データから振動モデル係数を推定して、ネットワークシミュレーションに応用するプロトコルを作成した。さらには、本プロジェクトの最重要課題である、計測データを定量的に再現する数理モデルにもとづいて、時計機能を理解するという点においても、遺伝子欠損マウスのリズム異常に対して、モデルを構築中であり、良好な予備実験の成果が得られている。生物リズムの制御についても、植物リズムに対して高精度な同期制御が可能であることを示し、位相応答曲線が、植物リズムを評価し、その動きを同定するには鍵になっていることが示された。 これらの成果は、米国科学アカデミー紀要やNature Communications, Scientific Reportsを始めとする一流専門誌に9編出版(あるいは採録が決定)されており、二年目までの達成度としてはきわめて順調である。 以上のことから、当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
1. 24年度の研究で同定されたCry遺伝子欠損マウスのデータ解析結果に基づいて、時計遺伝子の転写翻訳モデルをベースにした細胞ネットワークモデルを構築し、実験結果の再現を目指す。特に、遺伝子欠損マウスにおけるリズム消失が、Cry 1,Cry2の時計機能にどう起因しているのか、また発達段階におけるネットワーク様式の変化などについて考察する。 2. Cry遺伝子欠損マウスの行動リズムデータ(アクトグラム)に対しても、データ解析を行い、モデル構築を通して、行動計測におけるマクロな現象と、細胞の分子生物計測におけるミクロレベルの現象との間の関係について追究する。 3. シロイヌナズナの時計遺伝子系に対する制御実験を進めるとともに、制御において重要な位相応答曲線のより精度の高い推定を行う。特に、赤色LED、青色LEDなどの発光周波数の違いによる応答特性の違いを明確にすることによって、光の波長も考慮にいれたより高度の制御方法を設計する。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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