研究課題/領域番号 |
23560448
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
西新 幹彦 信州大学, 工学部, 准教授 (90333492)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 情報理論 |
研究概要 |
本研究では、次のような符号化の過程を想定している。シンボルの到着は確率過程でモデル化され、到着したシンボルは符号器に入れられる。符号器は入力されたシンボルの内容ばかりでなく送信機の状態をも監視しながらどの時点でどのような符号語を出力するのかを決める。符号語はその長さに比例する時間で送信される。符号語が送信されている間にもシンボルは到着し、新たな符号語が生成される。送信機が動作中は新たな符号語は送信バッファに入れられる。送信機は送信バッファが空になるとアイドル状態になる。本研究では以上のような枠組みで、シンボルの遅延をコントロールする方法を明らかにしようしている。すなわち、単に符号語長を調節するだけでなく、システムの現在の状態をリアルタイムに監視しながら符号語を生成することによって遅延をコントロールすることがこの研究の目的である。この目的を達成するために平成23年度はシステムの状態に対する符号器の動作を観測し、基礎データを収集した。符号器は入力系列を分節する機能をもつが、分節木は語頭条件を満たすものに限定しないことによって、送信機の現在の状態をリアルタイムに監視しながら符号語を生成することを可能にした。具体的には、送信バッファが空になることによって送信機がアイドル状態になろうするとき、符号器はそのときまでに入力されたシンボルから符号語を生成して送信機を稼動状態にする。符号器が任意の状態で符号語を生成するためには、入力系列の分節木の任意のノードに符号語を割り当てる必要があり、このとき分節木は語頭条件を満たさない。このような符号化モデルに基づいてシミュレーション実験を行なった結果、分節木が語頭条件を満たす標準的な符号(ハフマン符号、タンストール符号)に比べて遅延特性が改善されることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
23年度の研究計画はシステムの状態に対する符号器の動作を設計し、シミュレーション実験を行って現象を観測することであった。その狙いは、符号器の取るべき振る舞いがシステムのどの部分にどのように依存するのかを確認することである。シミュレーション実験によって、(1)分節木での待ち時間、(2)送信バッファでの待ち時間、(3)符号語の時間の挙動を観測することができたことから、現在までの達成度はおおむね順調である。
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今後の研究の推進方策 |
23年度の実験結果を踏まえ、遅延の最小化に寄与する要因を検討し、理論的な解析を行う。具体的に言うと、上記の実験より得られたのは、(1)符号化確率の選び方、(2)シンボルの到着状況、(3)送信機の状態によって遅延がいかに変化するかという知見である。これらの知見を総合し、遅延を小さくする符号の構成法を検討する。ハフマン符号などの構成法と異なり、本研究における符号とは、単に情報源系列と符号語の対応だけでなく送信機の状態に対する適切な振る舞いを含むことになる。また、実験で得られた最適なパラメータを説明するような数理を探り、最適符号が満たすべき数理的特徴を明らかにした後、最適化問題として定式化する。
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次年度の研究費の使用計画 |
遅延の発生メカニズムの数理を明らかにするために、待ち行列理論やスケジューリング理論の側面から理論的な検討を行う。したがってこれらの理論に関する十分な関係図書を用意する必要がある。さらに、遅延の分布を解析するにあたり、ラプラス変換や母関数による複雑な解析が必要となるため、数式処理ソフトウェアを有効に活用することによって効率のよい考察を行う。また、当初計画で見込んだよりも安価に研究が完了したため、次年度使用額が生じた。
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