研究課題/領域番号 |
23560456
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
楫 勇一 奈良先端科学技術大学院大学, 情報科学研究科, 准教授 (70263431)
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キーワード | フラッシュ符号 / フラッシュメモリ / WOM符号 / データ記録用符号化 / ランダムウォークモデル |
研究概要 |
当該年度は,主として2つの課題に注力して研究を行った. 最初の課題は,本研究における基礎となるスライス型フラッシュ符号の平均性能評価に関する研究である.とくに,Index-Less Indexedフラッシュ符号(ILIFC)におけるスライスの「重み」の変化をランダムウォークモデルにより記述し,解析する手法を開発した.これにより,データ書き換え回数が漸近的に大きくなる場合だけでなく,実用的パラメータの下でデータ書き換え回数が有限となるような状況でも,符号の性能を正確に評価することができるようになった.実用的パラメータにおける平均性能は,いわゆる工業製品の性能寿命と直結するため,本結果は理論的に興味深いだけでなく,工学的にも大きな貢献を与える成果であるといえる. 当該年度に注力した2つ目の課題は,具体的なフラッシュ符号の構成法に関するものである.昨年度までは,符号の性能を改善するために,スライスのサイズを小さくするような方策について検討を行っていた.そのようなアプローチは性能改善に一定の効果があるものの,たとえば最悪時性能の悪化等,なんらかの弊害が発生してしまう.本年度は,スライスを用いないデータ記録原理を部分的に利用することで,小スライス型フラッシュ符号の利点を確保しつつ,弊害を回避する手段を開発した.計算機実験により評価を行ったところ,本開発手法は既存方式よりも優れた平均性能を発揮し,また,符号化率の改善(向上)という観点からも優位性を持つ.さらに,いくつかの近似のもとで,平均性能を数値的に求めることが可能であり,取扱いの容易さという点からも注目に値するものとなっている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は,フラッシュメモリにおけるデータ記録において,長寿命化と高信頼性とを両立することにある.このうち長寿命化の課題については,効率の良い(すなわち,write deficiency と呼ばれるセル値の「使い残し」量が少ない)フラッシュ符号の実現により目的を達成することができると考えている.この観点から当該年度の研究成果を評価した場合,当初の予定以上に研究が進展していると考えることができる.開発したフラッシュ符号は,従来型の ILIFC に比べ,すべての符号化率にわたって write deficiency を大幅に削減することに成功している,さらに,開発した符号においては,ILIFC では許容されない高レート符号の構成も可能となっており,長寿命化に加え,汎用性の向上という当初想定していなかった特長も併せ持つものとなっている. 当該年度の後半からは,もう一つの研究目的,すなわち,フラッシュメモリにおけるデータ記録の信頼性確保に関する研究に着手している.近年,フラッシュ符号の研究においては,順位変調技術(rank modulation)と呼ばれる技術が熱心に研究されている.順位変調は,従来とはまったく異なる原理でデータを記録するという点で興味深いものであるが,連続的セル値モデルを想定する必要があるため,信頼性の確保という点からは問題があると考えている.この問題を回避するため,順位変調の考え方を離散的セル値モデルにおいて展開する検討を行っており,基礎的な方式等の設計まで完了している. 上述のとおり,長寿命化については当初計画以上の進展が,信頼性確保については計画通り順調な進展が得られており,全体の計画と照らし合わせても,おおむね順調に目標を達成しつつある.
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今後の研究の推進方策 |
スライス型フラッシュ符号の構成については,既に当初計画以上の成果が得られており,今後,この内容について注力しても,現在以上の成果を得ることは難しいのではないかと考えている.このため,スライス型フラッシュ符号に関する研究については一段落とし,論文,国際学会等における成果発表を中心に研究活動を行っていくことが適当であると考えている. 一方,離散的セル値モデルに順位変調技術を展開する研究については,これからの1年をかけて,方式の具体化,性能評価,既存手法に対する利点の明確化等の作業を行っていく予定である.現在,比較的小さなパラメータのもとでの符号構成法を確立しつつあるが,この構成法の汎用性を高め,任意の設計パラメータのもとで符号を構成できるよう,一連の手順を整備する.そのうえで,構成された符号の性能を左右する各種指標について実験的に評価を行い,開発方式が,順位変調技術の柔軟性と,離散的セル値モデルの信頼性とを兼ね備えていることを示す予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究においては,研究成果の対外発表を重点的に行うよう,一連の予算を執行する予定である.当初計画では,構成した符号の性能を評価するため,高性能の電子計算機を購入する計画を想定していたが,これまでの研究において,符号の性能に関する数理構造が予想以上に明確となったため,わざわざ計算機実験を行う必要性は低下しつつある.その一方,着々と得られつつある各種成果の公表・発表については十分対応できているとは言えず,次年度は,これまで以上に積極的に対外発表を行う必要があると考えている.このため,研究成果の発表旅費,学会参加費用,論文別刷り費用等を厚く見積もり,一連の研究成果を広く知らしめる活動に重点を置く予定である.
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