研究課題/領域番号 |
23560458
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
野田 秀樹 九州工業大学, 大学院情報工学研究院, 教授 (80274554)
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キーワード | 情報ハイディング / 画質改善 / 画像圧縮 / カラー画像 / QIM / JPEG / JPEG2000 / MAP推定 |
研究概要 |
情報ハイディング技術は,画像や音などのメディアデータの中に有用な情報を埋め込む技術である.本研究は,情報ハイディング技術の新たな応用として,画像情報圧縮への適用に関して検討を行う.情報ハイディングでは,情報を埋め込んだ後の表向きのメディアデータに不自然さを生じさせないことが望まれる.本研究は,このような情報ハイディングの特質を損なわない応用として,標準規格の非可逆圧縮カラー画像を対象に,その圧縮効率の向上を目指す. 昨年度はJPEGカラー画像を対象に,ハフマン符号化された色差成分の離散コサイン変換(DCT)係数を輝度成分のDCT係数に埋め込む方式を検討し,一定の圧縮効率の向上が確認できた.本年度は,この提案方式をJPEG2000カラー画像に適用させる検討を行った.JPEG2000画像への適用では,算術符号化された色差成分を輝度成分の離散ウェーブレット変換(DWT)係数に埋め込むことになる.JPEG2000はJPEGと比べて符号化・復号化処理が複雑で計算コストも非常に高いが,JPEG2000に対する提案方式を実装することには成功した.しかしながら,算術符号化された色差成分の埋め込みによって,輝度成分のデータサイズが埋め込まれた色差成分のデータサイズ以上に増加するという結果になった.その結果,JPEG2000カラー画像に対しては,埋め込みによる圧縮効率の向上は実現できなかった.一方,JPEG画像に対しては,偶数DCT係数と奇数DCT係数の頻度の違いを考慮した埋め込み法を新たに考案し,それを考慮しない場合と比べて圧縮効率の向上が実現できた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は,昨年度JPEGカラー画像に対して提案した方式をJPEG2000カラー画像に適用させる検討を行った.JPEG2000では周波数変換としてDWTが用いられ,エントロピー符号化として算術符号が用いられているため,JPEG2000画像への適用では,算術符号化された色差成分を輝度成分のDWT係数に埋め込みを行った.しかし,JPEG2000ではQIM(Quantization Index Modulation)の適用に際して,輝度成分のDWT係数の量子化を行う時点で量子化幅を知ることができず,従って,量子化器を用意できない問題点があった.DWT係数の表現精度は,利用者が指定した圧縮率のもとで画像歪みを最小化するように,符号化の最終段階で決められる.即ち,符号化の最終段階で初めて量子化幅が決定されることになる.従って,埋め込み処理は復号化の途中で行うこととした.情報が埋め込まれた量子化DWT係数に再度JPEG2000符号化処理を行って,情報が埋め込まれたJPEG2000濃淡画像を得た.ただし,再符号化では,可逆(ロスレス)圧縮を行う必要があった. 以上のように,JPEG2000ではJPEGと比べて符号化処理が複雑であったが,JPEG2000に対する提案方式を実装することには成功した.しかしながら,実装後の性能評価実験で,JPEG2000画像への埋め込みによる圧縮効率の向上が実証できなかったため,研究はやや遅れていると評価せざるを得なかった.
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今後の研究の推進方策 |
JPEG2000はJPEGに比べて,技術的には非常に優れた符号化方式であるが,処理が複雑でハードウェア実装コストが大きいことなどから,現在のところ広く普及するには至っていない.一方,2009年に国際標準規格に制定されたJPEG XRは,JPEG2000に近い符号化性能を有しつつハードウェア実装が容易な方式として注目を集めている. 本年度は,このJPEG XRカラー画像への提案法の実装を行う.このためには,利用可能なJPEG XR符号化ソフトウェアを調査し,そのソフトウェアの十分な解析が必要となる.研究代表者にとって初めて手がける符号化方式であり,その解析は容易ではないと予想されるが,研究協力者の協力を得て実現したい.更には,動画像への適用として,Motion JPEG XRへの適用についても検討する予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
JPEG2000画像への提案法の実装を行ったが,その後の性能評価で期待した圧縮効率の向上が得られなかった.これにより,広範な評価実験に要する謝金が必要なくなったことなどから,予算残額が発生した. 次年度は,研究用パソコンを1台購入するとともに,JPEG XR画像への提案法の実装(プログラム開発)のための謝金,研究成果発表のための旅費などに使用する予定である.
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