研究課題
情報ハイディング技術は,画像や音などのメディアデータの中に有用な情報を埋め込む技術である.本研究は,情報ハイディング技術の新たな応用として,画像情報圧縮への適用に関して検討を行った.情報ハイディングでは,情報を埋め込んだ後の表向きのメディアデータに不自然さを生じさせないことが望まれる.本研究は,このような情報ハイディングの特質を損なわない応用として,標準規格の非可逆圧縮カラー画像を対象に,その圧縮効率の向上を目指した.初年度はJPEGカラー画像を対象に,エントロピー符号化された色差成分の離散コサイン変換(DCT)係数を輝度成分のDCT係数に埋め込む方式を検討し,完全に実装することができた.QIMを用いた埋め込み法によって,埋め込みによる輝度成分の変化をできるだけ抑制した.更に,埋め込みによる輝度成分の画質劣化などを改善するため,MAP推定を用いた画質改善法を併用した.性能評価実験の結果,色差成分の埋め込みによって一定の圧縮効率の向上が確認できたが,画質改善法の適用の方が効果が大きいことがわかった.埋め込みと画質改善法の併用が最も効果的であることがわかった.次年度は,提案方式をJPEG2000カラー画像に適用させる検討を行った.しかし,色差成分の埋め込みによって,輝度成分のデータサイズが埋め込まれた色差成分のデータサイズ以上に増加するという結果になり,JPEG2000カラー画像に対しては,埋め込みによる圧縮効率の向上は実現できなかった.最終年度は,JPEG XR画像への提案法の実装を検討したが,JPEG XR符号化ソフトウェアの十分な解析ができずに,実装途中段階での終了となった.研究期間全体を通して,JPEGカラー画像に対してのみ圧縮効率の向上が確認できた結果になったが,現在最も普及しているJPEGに対して有効性を示すことができたことは十分に意義があると思われる.
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画像電子学会誌
巻: 43 ページ: 21-27
IEICE Trans. Information and Systems
巻: vol.E96-D, no.5 ページ: 1233-1237
10.1587/transinf.E96.D.1233