研究課題/領域番号 |
23560485
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
谷野 哲三 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50125605)
|
キーワード | 協力ゲーム / 線形空間論 / dividend / ファジィゲーム / 最小コスト全域木問題 |
研究概要 |
本研究では、譲渡可能効用をもつ協力ゲーム全体をひとつの線形空間とみて、線形空間論の立場からその特性やゲームの解について考察を進めた。 1)ゲームの線形空間の基底としては満場一致ゲームを取るのが自然である。この際のゲームの表現にHarsanyi dividendが用いられる。さて、現実の状況では実現可能でない提携が存在することがありうる。その際のdividendをどのように定義するか、また通常の協力ゲームへの拡張との関連がどうなるかを明らかにした。凸性などのゲームの性質もdividendを用いて明らかにした。 2)協力ゲームのShapley値に代表される点値解は、元のゲームを加法的ゲームで近似することによって得られる。加法的ゲームの全体はゲーム空間の部分空間をなすが、dividendを用いるとその特徴づけが極めて容易になる。したがって、点値解を求めるための最良近似問題を明瞭な形で定式化することができることを明らかにした。これにより目的に合った解を求めることが容易となった。 3)最小コスト全域木問題におけるコスト分担問題は協力ゲームの視点から取り扱うことが可能であることはよく知られている。ゲームと同様に実現可能な提携の族を導入した場合、実現可能な全域ネットワーク(木)をどう定義できるかを明らかにし、その存在性を論じた。さらに自然なコスト分担法を提案した。 4)協力ゲームにおける提携の実現可能性を伝達構造を用いて論じることは基本的である。伝達構造には不確実性が伴うことが考えられるがこれをファジィ理論を用いて取り扱い、その状況を反映した協力ゲームの定義を明らかにした。またゲームの諸性質について考察を加えた。 以上の研究は協力ゲームに関する理論的進展に寄与するものと考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究でも基礎となっている線形代数の著書の執筆に時間を割いたことや学科長業務などの影響、また研究成果を発表する適当な国際会議の選定が難しかったこと等の理由が重なり、やや遅れ気味である。ただ研究遂行の方向は明確になっているので、25年度の研究遂行に問題は無い。
|
今後の研究の推進方策 |
基本的な研究計画に大きな変更はないが、具体的に以下のようなテーマを中心に研究を進める。 1)協力ゲームからなる線形空間の基底としては満場一致ゲームを考えるのが自然であり、この基底によるゲームの表現にはdividendが用いられる。提携の実現可能性を考慮した場合のdividendの果たす役割や、ゲームの解表現などについて更に深く考察を進める。 2)しかし基底の取り方には他の可能性も考えられる。その際のゲームの表現係数とdividendとの相互関連、凸ゲームなどの重要なクラスのゲームの特徴づけ、新しい基底表現に基づくゲームの解の求め方、ファジィゲームへの拡張法、提携の制限が新しい基底表現に及ぼす影響など、考察すべき点は多い。 3)提携の実現可能性を考慮した場合、それがゲーム空間にどのような影響を及ぼすのかを明らかにしていく。従来はゲームやdividendの値の変化として捉えるのが普通であったが、ゲーム空間の制限といった構造的な変化として捉える可能性を追求してみる。 4)最小コスト全域木問題など協力ゲームを派生する具体的状況を対象に、提携の実現への制限、コストの非対称性などの現実的ファクターを考慮した考察をさらに進める。 5)通常のゲームを拡張した多選択ゲーム、ファジィゲームの線形空間に関する考察を進める。
|
次年度の研究費の使用計画 |
研究を進めていく上で必要に応じて研究費を遂行したため当初の見込み額と執行額は異なったが、研究計画に変更はなく、前年度の研究費も含め、当初予定通りの計画を進めていく。 具体的には図書、OA機器、文房具などの物品、研究成果の発表及び最新研究動向の調査のための旅費、学会への参加費などに研究費を使用する予定である。
|