研究課題/領域番号 |
23560492
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研究機関 | 室蘭工業大学 |
研究代表者 |
相津 佳永 室蘭工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20212350)
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研究分担者 |
島谷 祐一 東京都市大学, 工学部, 准教授 (20154263)
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キーワード | 皮膚計測 / 分光反射率 / イメージング / ハイパースペクトル |
研究概要 |
1.分光反射率ライブラリのモンテカルロ生成...先行研究で開発した9層構造皮膚モデルを使い,さまざまな生理条件での各層の吸収係数,散乱係数値を設定し,光伝搬モンテカルロシミュレーションにより大量の分光反射率データを生成,ライブラリ化した.現時点で利用可能な文献から計算に必要な非等方性パラメータ,屈折率,層厚みの代表値を活用したが,一部実測と合わない部分は,光コヒーレンストモグラフィによる計測結果を適用して推定を行い利用したことで対応が成功した. 2.分光反射率データベースの構築...[1]で得た大量の分光反射率データから自動で高速検索可能な階層型データベースを開発した.個々の分光反射率データを生成するために用いたパラメータを,第1階層から第5階層まで,1)吸収係数,2)散乱係数,3)非等方性散乱パラメータ,4)屈折率,5)層厚み,に割り当てたが,酸素飽和度を別途既定するステップを新たに用意した.各階層でのパラメータ値は2桁で表現でき,計10桁の数値で分光反射率データを特定したことでテキストベースによる高速検索を可能にした. 3.高速スペクトルフィッティング法の開発...正常部位ならびに前年度構築の検索法で抽出した疾患疑いの領域の両測定分光反射率をスペクトルキューブから読み出すソフトを開発した.これを[2]のデータベース内分光反射率ライブラリとパターンマッチングにより照合し,それぞれ最も近似するライブラリ内の分光反射率を高速に特定するアルゴリズムをGPUにより実現した.内部ではスペクトルを400-720nmで5分割したことで,並列演算を可能にし,高速化が達成できた.以上より正常部位と疾患疑いの領域で皮膚9層の吸収係数,散乱係数を同定できるようになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,皮膚ガンの確実な検出を目指し,腫瘍部のメラニン・血液濃度変化による光吸収係数と組織構造変化による光散乱係数を,ハイパースペクトル画像から得たピクセル単位の高空間分解分光反射率を,別途9層構造皮膚モデルに基づき構築した計算分光反射率データベースと比較フィッティングすることで,皮下内部組織の各層毎の光学的吸収係数と同散乱係数を同定し,微小腫瘍および内部異常部位の高確度な検出を行う皮膚ガン診断支援イメージングの新規開発を目的としている. 現時点で,前年度までに開発した波長別自動補正制御型ハイパースペクトルイメージング装置で得られるピクセル単位の分光反射率データを,x-y軸に画像,z軸に波長をもつ3次元ハイパースペクトルキューブとして構成し,高効率で圧縮保存できるようにしたことに続き,今年度には,実測スペクトルと比較するための多様な分光反射率データを大量に生成し,それらをテキストベースで検索可能な階層型データベースとして確立することができた.さらに実測値とシミュレーション値を高速に比較しスペクトルをフィッティングするソフトが思い通りに開発できたことで,当初計画の内容が効率的に実施できたと考えており,研究は概ね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
今年度開発したフィッティングアルゴリズムで,一部,異なる組織変化にも関わらず類似したスペクトルを示す例が分かったため,これらに対して,何らかの医学的先見情報を導入し,判別精度を高める改良を行う予定である. また,正常部と疾患疑いの領域の吸収・散乱係数を皮膚の各層で比較し,一定の閾値以上の差異で異常と判断するアルゴリズムを開発する計画である.これで個人差・部位差の影響を低減できると期待する.閾値は検証実験により最適化する.さらに,異常部位を大型ディスプレイに3次元画像表示するソフト,ハイパースペクトル画像データ群の波長間での位置ずれを自動補正するソフトも当初計画通り開発する予定である. 構築したシステムを用いて検証実験を行い,本手法の有用性を確認する予定である.特に吸収と散乱が大きく変化する条件を用いて,本手法の空間分解能と深さのレベル評価を行う.また,併せて手法と操作性の確認,測定システムの改良・修正を最後に行う計画である.
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次年度の研究費の使用計画 |
データ送信転送デバイスや消耗品の一部が当初予定価格より安価に購入できたことで残額が生じた.これについては,25年度に予定する検証実験でのサンプル量を増加させるために充当し,実験回数を増やし,検証の信頼性を向上させる予定である. また,大型ディスプレイについては,進展が著しい輝度性能や画面サイズ,画素数などを最新状況に合わせて見直す予定であり,見合った価格と性能のものを購入する予定である. また,システムの最終的な検証と修正過程で生じる部品の入れ替えや一部性能向上のための組み直しなどにも研究費を充当する予定である.
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