研究課題/領域番号 |
23560496
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研究機関 | 福島大学 |
研究代表者 |
山口 克彦 福島大学, 共生システム理工学類, 教授 (30251143)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 計測工学 / 金属物性 / 磁性 / 非破壊検査 / Ni基合金 / 超音波干渉 / 試料振動型磁力計 |
研究概要 |
Alloy600(インコネル)に代表されるNi基合金は、その強靱性のため原子力プラントの配管などに用いられており、それ故に劣化の早期検出が重要となっている。このようなNi基合金は非磁性であるが、初期劣化部位では微小な磁化を持つことがわかっており、部位ごとの局所的な磁気特性の測定が可能になれば劣化部位の早期検出が行えることが期待される。本研究では試料振動型磁力計(VSM)の原理を用いながらも、振動を超音波干渉によって部位ごとに起こすことで空間分解能検出能力の高い全く新しい磁気測定方法(超音波干渉VSM)を開発することを目的とする。これにより、部位ごとの磁気特性を測定し、Ni基合金の劣化部位の検出ができるようにすることを目指しており、これまでの研究過程において下記のことが実現している。 まず本研究費で購入した高速バイポーラ電源を用い、積層アクチュエータの出力を増大させ充分な強度の超音波を生じさせることができた。一方で、アクチュエータを高電圧により傷めないように連続サイン波から短時間バースト波に切り替え、バースト干渉波を発生させることにも成功している。この干渉波を用いたVSM測定試験を行ったところ、アクチュエータからの電磁ノイズ低減および空間分解能を増すためのピックアップコイルについて課題が生じた。これらは回路系の改良と4連ピックアップコイルの導入により、大きく改善された。このシステムを用い、非磁性体に1mmφのFe棒を埋め込んだ試験片に対して測定を行ったところ、干渉波がFe棒の領域で起こるときにのみVSM信号が検出された。以上から、超音波干渉VSMの原理実証試験に成功したと考えている。ただしNi基合金の部分劣化部位での測定では更に精度を上げる必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
空間分解検出能力の高い新規の磁気測定法である超音波干渉VSMの原理実証試験に成功し、基盤技術となることが示せていることから、ほぼ計画通りに進展していると考えられる。 まず特定部位に充分な振幅をもった低周波干渉波を発生させるための超音波入射系を開発した。購入した電圧増幅器を用いることで積層アクチュエータの最大振幅(100V印加時)を発生させることができるようになったので、VSM信号検出が期待できる強度の干渉波を指定部位で得ることができるようになった。ただし強度増大に伴い、アクチュエータの負荷低減が必要となり入射超音波を連続波から短時間バースト波に変更した。またアースラインを整備し、電磁ノイズの低減を図った。 またアクリル板等の非磁性体に1mmφのFe試料を埋め込んだ試験片を模擬的に部分劣化した試料と見なしてVSM信号が測定できるかを検証した。当初単独のピックアップコイルでは干渉波と同周期の電磁ノイズが若干重畳されてしまいVSM信号との分離が困難であったことから、位相反転型4連ピックアップコイルを作成し外部信号をキャンセルしたところ、Fe試料部位でのVSM信号が検出できるようになった。ホールセンサーやMR素子ではこのキャンセレーション手法が使えないことから、超音波干渉VSMではピックアップコイルの使用が適切であると結論づけた。またバースト波を用いていることから当初予定していたロックインアンプによる検出ではなく、ADCを介してPCに取り込んだ信号をフーリエ解析する手法に変更している。 平行してNi基合金(インコネル)棒材の一部にヒーター線を巻き加熱し他の部位は水冷却することで、部分劣化試料を人工的に作成することを試みた。ただし現在のところ局所的に高温を保つことが難しいため、充分な部分劣化磁性を得られていない。レーザー加熱などの別手法を検討中である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの原理実証試験により、超音波干渉VSMが実際に実現可能であることを示せたことから、今後は実機として実用化可能なレベルまで測定精度を上げていくことが課題となる。 測定精度の向上には今回採用した4連ピックアップコイルの精密化が必要である。4つのコイルの空間対称性を向上させることで外部ノイズをより低減化させ、必要なVSM信号のみを検出できるようにする。またコイル間の距離をより短くすることで空間分解能を高めることが可能である。これらの改良により、磁化の弱いインコネル劣化部位磁性を検出することを目指す。なお現状では局所加熱によるインコネル劣化部位の人工生成に困難があることから、当面の検証には全体を650度で電気炉加熱したインコネル小片を非磁性体に埋め込み、これを模擬試験片として用いることとする。また別途レーザー加熱などを検討し、部分劣化部位生成試料の作成を試みる。 実用化のためにはどの程度高い空間分解能を得られるのかを検証することも重要である。そのため非磁性体に細かな磁性体を複数埋め込んだ試料片に対して、アクチュエータとピックアップコイルを精度よく移動させ、VSM信号の増減分布をとる必要がある。また超音波干渉を用いることから、試料内で超音波の反射・散乱によって起こる想定外の干渉部位があるかどうかを検証することも行う。特に実用化に向けて、パイプやブロックなど様々な形状に対してゴースト干渉波が生じうるか確認することが求められる。 なお、本研究を進める過程で超音波干渉VSMは試料全体の磁化を測定する上でもこれまでのVSMを大幅に小型化できる可能性があることに気がついた。これは超音波干渉領域をある程度広げることで実現できると思われる。この検証についても平行して行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費として以下を想定している。これまで自作していた4連ピックアップコイルを磁気計測器メーカーに発注し、空間対称性のより高いコイルとして検証試験に使用する。またヘルムホルツコイル中で超音波干渉領域を連続的に移動させるためのxステージを導入する。検出信号をPCへ取り込むためのADコンバータおよびフーリエ変換処理のためのソフトウエアを購入する。なお試験片として用いるインコネル材等の材料費および信号回路改良のための電子部品が引き続き必要である。 出張費としては、特許申請に抵触しない範囲の内容で国内学会1件、国際学会1件を予定している。 空間分解能の検証のために試験片の様々な部位での干渉による信号処理を行うことが必要であることから、データ処理補助業務のための謝金を計上している。 その他として、上述したxステージ導入時に必要な治具加工費を計上する。
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