研究課題/領域番号 |
23560497
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
島影 尚 茨城大学, 工学部, 教授 (80359091)
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研究分担者 |
齊藤 敦 山形大学, 理工学研究科, 准教授 (70313567)
武田 正典 静岡大学, 創造科学技術大学院, 講師 (80470061)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 超伝導 / 高温超伝導薄膜 / MOD法 / レーザーアブレーション法 / KID |
研究概要 |
本研究課題では、極低ノイズ特性の特徴を有する電磁波検出器として最近注目を集めている超伝導カイネティックインダクタンスディテクター(KID)と呼ばれる超伝導センサーをBi2Sr2CuCa2O(BSCCO)系高温超伝導体を用いて作成することを目指している。 当該年度での研究としては、有機金属堆積(MOD)法によるBSCCO薄膜作成を重点的に行なった。MOD法は、比較的容易に、大面積の薄膜を得ることができる成膜法であり、KID素子作成に対して重要な要求となる大面積基板への成膜が可能という特徴を持つ。MOD法によるBSCCO薄膜作成に関しての国内外での研究の現状は、高誘電率のSrTiO基板上に作製されているのみであるが、我々は、高周波応用を最終的に目指していることから、低誘電率でかつ、低損失の基板である、サファイア基板上のBSCCO薄膜作成を目指し、研究を行った。MOD法による成膜のためのシステム構築を当該年度前半で終え、成膜条件の最適化の実験を行った。当初はサファイア基板上に直接BSCCO薄膜の作成を試み、超伝導転移を示す薄膜の作成に成功したが、BSCCOバルクに比べて、低い臨界温度しか得られなかった。その理由をBSCCO薄膜とサファイア基板の格子定数のミスマッチと、高温成膜のための基板と薄膜の反応の問題であることと予測し、CeOバッファ層を成膜することを提案し実験を行った。CeOの成膜方法としてはレーザーアブレーション法を用いた。作製されたCeO薄膜の結晶構造などを調べたところ、c面サファイア基板上には結晶性の良いCeO薄膜は得られなかったが、r面サファイ上には面内配向性の良い薄膜を得ることができた。レーザーアブレーション法により成膜したCeO薄膜を用い、BSCCO薄膜の作成を行ったところ、臨界温度が63KのBSCCO薄膜の作成に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の最初の年度である当該年度では、MOD法の成膜装置の構築と、レーザーアブレーション法による高温超伝導薄膜の作成を目指していた。このうち、MOD法に関しては、サファイア基板上への直接のBSCCO薄膜成膜への研究からスタートし、CeOバッファ層がBSCCO薄膜の高品質化に関与することを予想した。CeO薄膜の適切な成膜条件などを探した結果、CeOがバッファ層として適切に機能することを実証し、比較的、質の良いBSCCO薄膜作製が可能となった。このように、MOD薄膜に関しての研究は順調に推移していると考えている。 一方、レーザーアブレーション法による高温超伝導薄膜作製に関しては大きな進展はなかった。これは、東日本大震災の影響で、当研究で使用しているYAGレーザが、光軸などのアライメントに大きな不具合が生じた事による。また、成膜用の真空チャンバーを排気するターボ分子ポンプが地震により完全に故障したことにより、別の排気装置を組み込む作業が必要であった。さらに、成膜チャンバー内の基板ホルダーなども破損し、修理に多くの時間を費やすこととなった。定常の薄膜作製が出来る環境に回復するために、当該研究年度ではシステムの修理から始めざるをえなかった。幸いながら、当該年度後半で、レーザーアブレーション成膜システムの現状回復ができたため、薄膜作製実験を再開することができた。しかし、YAGレーザーの出力が、震災前までの値にはまだ回復していないことから、超伝導薄膜(YBCO系でテスト中)作製の最適化は終わっておらず、現在も進行中である。 一方、MOD法によるBSCCO薄膜のバッファ層として、CeO薄膜の作製をこのレーザーアブレーション成膜システムで並行して行った。こちらは、サファイ基板に結晶性の良いCeO薄膜が成膜できており、この成膜の条件だしは概ね順調に進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度に引き続き、MOD法によるBSCCO薄膜成膜条件の最適化実験を続ける。また、レーザーアブレーション法による超伝導薄膜の成膜の最適化を進める。薄膜成膜に関しては、薄膜のデバイス化を行いながら、デバイスの特性評価を行なうとともに、常に最適化を進めていく。さらに、今後は、得られた超伝導薄膜に対して、サファイア共振器法を用い、10GHz帯における薄膜の高周波表面抵抗測定を行い、高周波ロスの評価を行う。また、それらの実測値を使い複素インピーダンスの導出を行う。これは、後のマイクロ波回路の設計に対して重要なパラメータを与える。 さらに、準粒子ライフタイムの見積もりを行なうため、BSCCO超伝導体のSIS(超伝導-絶縁層-超伝導)接合の作製をはじめる。本質的に、BSCCOは非常に短いコヒーレンス長を持つことによる人工的なSIS接合作製の困難を持つことから、BSCCO結晶内部に存在するイントリンシック接合を用いて、SISの電流電圧特性を観測することを始める。イントリンシック接合は、BSCCO結晶のc軸方向に固有に存在するジョセフソン接合であり、この素子評価により、BSCCOの超伝導ギャップを知ることができる。得られた接合から測定される電流電圧特性から、数値計算でギャップの虚部を計算する。そのフィッティングから準粒子ライフタイムを見積もる方法を確立する。また、ギャップ電圧の温度依存性を調べ、高温超伝導体KIDの応答周波数の見積もりを行う。 最終年度には、KIDの中心的要素となるコプレーナ伝送線路による共振器構造を作成するための設計を始める。その設計に基づき、薄膜共振回路を作成し、その共振特性の測定を行う。これらのことから、BSCCO薄膜を用いたKID素子が、実用可能な性能が得られるかを検証する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度はBSCCOイントリンシック接合の電流電圧特性データ取得設備を整えるため、AD変換器およびマルチメータを備品として購入する。また、YAGレーザーのフラッシュランプとDIフィルターは定期的に交換が必要なため、消耗品として購入する。MOD成膜用のMOD成膜溶液も消耗品として購入する。成膜に関してはMOD法とレーザーアブレーション法に対して適切な成膜条件を見つけ出すために、多くの成膜を行わなければいけない。このため、400枚ほどのサファイア基板と、MgO基板の購入を行なう。 研究成果の外部へのアピールのため、年2回の応用物理学会、日本で開かれる国際会議であるISS、アメリカで開かれる応用超伝導国際会議、への旅費とその発表経費に予算を使用する。さらに、研究代表者、共同研究者、研究連携者の密接な研究打ち合わせのために、年二回のミーティングを計画しており、その旅費に予算を使用する。
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