本研究の目的は,電磁交流インピーダンス法(EMI)と加工変質層センサを用いて,ステンレス鋼の高精度劣化診断システムを開発することである.最終年度は,作製した平面曲げ疲労試験機を用いて,高サイクル疲労試験を行い,表面改質層センサによる劣化診断が可能か調査した.結果として,表面改質層の磁気特性の変化を測定することによって,繰返し数1回から疲労劣化の状況をモニタリングできることがわかった. 研究期間全体を通じての実施計画としては,表面改質層の磁気特性に影響を与える因子の解明,表面改質層の磁気特性に対する応力の影響評価,表面改質層の磁気特性と疲労劣化との関係を調査することであった.得られた研究の成果は以下のようなものである. ①マルテンサイト相の体積分率,アスペクト比などの影響を考慮できる磁気マイクロメカ二クスモデルを用いた解析と実験によって,表面改質層の磁気特性を制御する因子は,マルテンサイト相の体積分率,アスペクト比,配向角と内部応力であることがわかった. ②外部引張応力下で予ひずみを与えたSUS304鋼の透磁率特性を計測し,透磁率特性の応力依存性について評価した結果,引張応力方向がマルテンサイト相の磁気困難軸方向であることがわかった.また予ひずみの大きさによって,応力依存性が変化することがわかった. ③片振り引張繰返し変形下で予ひずみを与えたSUS304鋼の磁気特性を計測し,繰返し変形によってマルテンサイト相に内部引張応力が生じ,その内部応力によって磁気特性が変化することがわかった.また,SUS304鋼の透磁率特性の繰返し変形による変化量には予ひずみ依存性があることがわかった.
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