研究課題/領域番号 |
23560504
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研究機関 | 和歌山大学 |
研究代表者 |
村田 頼信 和歌山大学, システム工学部, 准教授 (50283958)
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キーワード | 超音波 / 超音波探触子 / 高分子圧電材料 / PVDF / P(VDF-TrFE) / M系列 / パルス圧縮 / 非破壊検査 |
研究概要 |
本研究課題で提案する符号積層開口技術は,高分子圧電膜内の双極子の極性方向をコントロールして積層を行うことにより超音波探触子の高機能化をはかる技術である.本年度は,まず,次年度に引き続き高分子圧電膜の成膜技術の向上について検討を重ねた.また,高分子超音波探触子の製造・評価システムの見直しを行った.成膜時において埃等のゴミは,分極時に絶縁破壊を起こすだけなく,圧電率の低下にともう性能の低下が懸念される.そこで,製造システムに簡易のクリーンブースを作製するなど超音波センサの製造空間のクリーン化をはかった.その結果,これまでと比較して成膜面積を広くかつ薄膜化した場合でも一定の性能で成膜が可能になった. 次に,高分子圧電膜の極性をコントロールして,適切な遅延層を挟んで,互いに位相が半波長ずれるように符号化して積層する新たな超音波探触子を開発した.これによって,各層から励起される超音波が互いに強調し合うように位相反転・遅延させることが可能となった.このようにして作製した積層超音波探触子を既存の単層超音波探触子と比較した結果,約2倍の感度向上をはかることができ,より微小な欠陥の判別が可能となった. さらに,M系列の符号系列に従って圧電膜の極性をコントロールして積層を行うことで,M系列パルス圧縮超音波探触子を考案した.このような探触子で発生させた超音波は,パルス圧縮と同じ効果が期待できる.実際に,M系列の符号長を7bitまで上げたパルス圧縮超音波探触子を作製し,点広がり関数を求めて既存の平板形超音波探触子との性能比較を行った.その結果,M系列パルス圧縮超音波探触子はより高分解能かつ高S/N比で超音波計測が行えることが実証された.また,符号長を長くすることで,探触子性能が向上することも確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では,高分子超音波探触子の性能を大幅に改善する全く新しい技術(符号積層開口技術)を提案し,この技術の有用性を実証することを最終目標としている.これまで,高分子圧電膜の成膜技術の向上,および高分子超音波探触子を構成する材料の特性を緻密にコントロール可能なシミュレーション技術の確立を果たしている.本年度においては,所望の特性をもった高分子圧電膜を成膜するシステムを構築した.また符号積層開口技術を応用した超音波探触子の設計・試作を行った.その成果として,圧電膜で発生する超音波の遅延・加算を利用し,高分子超音波探触子の感度向上を実現した.また,当初の計画に加え,新たにM系列パルス圧縮超音波探触子を開発することで,これまでの高分子超音波探触子の性能を大幅に向上させることに成功した.以上のことから,本研究は当初の計画以上に順調に研究を遂行できている.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,高分子超音波探触子の製造工程およびシステムの見直しをはかり,更なる改善および評価システムの自動化を進める.また,M系列パルス圧縮超音波探触子の最適化をはかるとともに,異なる膜厚の圧電フィルムを順に積層させることによって超音波探触子自身でチャープ波の送信が可能かどうかも検証する.このような探触子で発生させた超音波は,M系列パルス圧縮超音波探触子同様,パルス圧縮と同じ効果が期待できるだけでなく,任意波形発生装置などの特殊な装置を用いずとも,既存の装置のみでパルス圧縮波が発生・検波できるという大きな利点を有する.さらには,M列パルス圧縮超音波探触子による指向角制御を試み,超音波撮像用の超音波探触子としての応用についても検討を行う.
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は,高分子圧電膜の製造工程およびシステムの最適化に要する物品(例えば,ディジタル顕微鏡やオイルバスなど)及び消耗品(高周波部品など)購入する計画である.また,符号積層開口技術による各種高分子超音波探触子の設計・試作を重ね,これらの探触子性能の改善をはかるために必要な資材(高分子圧電膜,接着剤,遅延材など)を購入する.また,開発した超音波探触子の評価データを蓄積・解析するために必要な消耗品(計算機や大容量HDDなど)を購入する.一方で,本研究に関する究資料を収集すると共に,得られた研究成果については積極的に公表を行うなど,研究費を計画的かつ有効に活用する.
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