本研究の最終目標は,高分子超音波探触子の性能を大幅に改善する全く新しい技術(符号積層開口技術)を提案し,この技術の有用性を実証することである.ここで符号積層開口技術とは,高分子圧電膜内の双極子の極性方向をコントロールして積層を行うことにより超音波探触子の高機能化をはかる技術のことである. まず,圧電素子を表すMasonの等価回路に,バッキング材や電極,遅延材,それに接着層を表す分布定数線路を組み合わせて符号積層開口を有する高分子超音波探触子を表現し,さらには伝搬媒質の減衰なども考慮した測定システム全体のシミュレーションにまで発展させた.一方で,簡易のクリーンブースを作製するなど超音波探触子の製造空間のクリーン化および製造システムの最適化をはかった.その上で, M系列の符号系列に従って圧電膜を積層することで,インパルス電圧の印加のみでM系列変調波が送信可能なM系列パルス圧縮超音波探触子を考案・試作した.一般の平板形超音波探触子との性能比較を行った結果,開発した超音波探触子はより高分解能かつ高S/N比で超音波計測が行えることを実証した. 最終年度は,この技術の応用を更に進め,異なる膜厚の圧電フィルムを順に積層させることによって超音波探触子自身でチャープ波の送信が可能なチャープ波パルス圧縮超音波探触子の開発を行った.結果として,M系列パルス圧縮超音波探触子同様,特殊な装置を用いずとも,既存の探傷装置のみでチャープ波が発生可能なことを実証した.さらに,パルス圧縮に欠かせない後処理(相関検波)の機能を探触子側で実現する新たな手法も考案した.具体的には,チャープ波パルス圧縮探傷において,送信用と受信用で圧電膜を互いに逆の順序になるように積層することで,送信子で発生させた異なる周波数の波を受信子で同時に受信することになり,結果として後処理なしでパルス圧縮計測が実現可能なことを実証した.
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