研究課題/領域番号 |
23560511
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
井内 徹 東洋大学, 理工学部, 教授 (20232142)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 放射測温 / 放射率 / 偏光 / 放射輝度 / 半導体 / シリコンウエハ / 背光放射雑音 / 非平衡温度場 |
研究概要 |
本研究テーマは、非接触温度計測法としての放射測温法を実用に供す際、その計測対象の存在する空間環境が極端に異なる非平衡温度場になっているときに、信号となる測定対象からの放射を、加熱源からの強烈な放射雑音から十分なS-N比で分離し(信号と雑音の完全分離)、かつ測定対象の放射率の変動の影響を受けない測温原理に基づく「放射測温システム」を、制約された幾何学的空間の条件下で設計構築することを目的としている。また、具体的な対象として、半導体シリコンウエハを高速加熱するプロセスを想定し、シリコンウエハの放射率が変化しても、その変動を補正し、かつ加熱源からの放射雑音(背光放射雑音)の影響を排除した放射測温システムを試作し、研究目的の設計構築手法の有効性を実証し、最終的には放射測温システムを設計構築する一般的な方法論を提案することにある。 今年度の研究実績として、まず放射率問題を克服した放射測温法の原理、(1)Emissivity-invariant condition(放射率不変条件)による放射測温法、(2)偏光放射輝度比による放射率補正放射測温法、の2つの手法が、信号と雑音の完全分離の観点からも有効であるためには、4.5 ミクロン以上の検出波長においても成立しなければならないが、HgCdTeセンサを利用した放射計を用いてこれを確かめ、最終的に0.9~4.5 ミクロンの範囲で測定原理の有効性を確証できた。 さらに、極端に非平衡温度場を実現する狭い計測空間の加熱・測定装置を試作し、強烈な加熱源を導入し、その影響(背光雑音)を受けない放射測温システムを実証する実験を開始し、有効な知見を獲得しつつある。 このような研究活動の成果として、今年度は学術誌論文(Applied Optics)1件、国際会議2件、国内学会発表1件を公開した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.赤外長波長域における放射測温法の確証実験。研究代表者によって開発された2つの放射測温法原理、(1)Emissivity-invariant condition(放射率不変条件)による放射測温法と(2)偏光放射輝度比による放射率補正放射測温法は、これまで検出波長が0.9~1.3ミクロンの近赤外波長域に限定されていたが、4.5ミクロン以上の波長域でも同等に有効であることを確証できた。しかも、測定対象として、シリコン酸化膜(SiO2)とシリコン窒化膜(Si3N4)の両方に対して有効性を確証した。この結果、シミュレーションモデルの適正さを確認するとともに、本研究の基本的な課題の1つである背光雑音と信号輝度の完全分離の実現を確実なものとした。 2.高応答偏光放射計の設計・試作(特注)。仕様の検討を行い、設計・試作した。その結果、視野角0.5°(距離係数200)、応答波長4.5ミクロンの2段電子冷却HgCdTeセンサ、測定温度域500K以上はほぼ実現できたが、応答速度仕様1msは、現時点で5msにとどまった。この点に今後の改良の余地がある。 3.極端な非平衡温度場を実現する狭い計測空間の加熱・測定装置の試作。4本のハロゲンランプからなる加熱源を導入した背光放射雑音発生装置を試作した。輝度温度2000Kの雑音源と1000Kの試料からなる極端な非平衡温度場を実現した。これらの組み合わせでの一連の実験を実施し、その結果検出波長4.5ミクロン以上を有する赤外センサの偏光放射計と石英板の組み合わせは、上述の背光放射雑音を実質上ゼロとする放射測温システムの構築を可能とする結果を得た。これらの研究成果により、2.の試作放射計の応答速度が基準に達していない点を除いて、本年度目標としていた計画をほぼ完全に達成できた。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までにほぼ研究計画どおりに研究達成できたので、以下箇条書きで今後の研究推進方策を記述する。1.前年度の研究の継続。(1)p型シリコンウエハによる同様の実験により、これまでに得たn型シリコンウエハに対して有効な放射測温原理が成り立つかどうか確認する。相違があればその原因を究明する。(2)4.5ミクロン以上の検出波長の偏光放射計と石英板の組み合わせによる背光放射雑音除去法と石英板に水を添加し、水吸収波長を利用した手法の有効性を実験で確認し、4.5ミクロン波長の結果と比較検討する。(3)SiO2やSi3N4などの誘電体膜以外に、NiSi(ニッケルシリサイド)膜ウエハの放射率特性を測定し、放射測温原理を追及する。(4)極端な非平衡温度場における背光放射雑音除去法の有効性を上記試料に対して確認する。(5)ウエハ面上にデバイスが構築されている試料に対して測温法の有効性を考察する。2.不確かさ評価。実験データを詳細に考察し、放射測温システムの総合的な不確かさ評価を実施する。3.放射測温システムの設計構築。実験データをベースにして、極端な非平衡温度における放射測温システムの一般設計論を確立する。具体的な条件下で、最適な放射測温システム設計例を示す。
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次年度の研究費の使用計画 |
1.多種類のシリコンウエハの購入と加工費(約50万円)。2.国際会議出席旅行代と参加費(約25万円)。3.学術誌論文印刷代(約5万円)。
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