研究課題/領域番号 |
23560522
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
山下 善之 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60200698)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | プロセス制御 / 異常診断 |
研究概要 |
本研究は,化学プラントの運転時における各種の損失を極力少なくするために、高い信頼性を持った安全なプロセス制御システム(ディペンダブル・プロセス制御システム)を実現するための枠組みを構築することを目的としている.このシステムの実現によって、従来のシステムでは対応が困難であったような異常時における対応操作をも考慮した上での、高い信頼性と可用性、保守性、安全性を実現するプロセスシステムの設計を可能にする。その実現のためには,「異常の検出・診断」と「プロセス制御」そして,「全体の管理」の3つの基本要素を密接に関連させて研究することが不可欠である. 平成23年度は,異常検出・診断手法として,定性的な挙動解析に基づく方法と非線形動的モデルに基づく手法を開発し,それぞれ,口頭発表[3],[5],[6]および口頭発表[4]にて発表した. また,基礎となるプロセス制御系においては,対象プロセスや制御システムのパラメータ同定が極めて重要であるが,平成23年度には,このモデル同定のための新しい手法として,ARXモデルに基づく方法と解析的な手法の2つの手法とを開発し,それぞれ,口頭発表[1],[2]および論文[1]にて発表した. 一方,ダイナミックシミュレータを用いて,酢酸ビニル合成プロセスの詳細なダイナミックシミュレーションモデルを構築することができた.このモデルは,今後の検証用のプラットフォームとして,活用していく予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書の「研究の目的」には,「化学プラントの運転時における各種の損失を極力少なくするために、高い信頼性を持った安全なプロセス制御システム(ディペンダブル・プロセス制御システム)を実現するための枠組みを構築する。」とある.その実現のためには,状況に応じた対応操作をどのようにして決定するのかといった問題を解決するために,(a) 状況の認識,(b) 対応操作の候補集合の生成,(c)候補集合からの最適解の選択の3 つの課題をそれぞれ解決する必要がある。 平成23年度は,このうちの (a)状況の認識 に関する研究と,(c)の候補集合からの最適解の選択 に関する研究を中心に行った.すなわち,(a)については,プラントの運転状況を認識するための新たな異常検出・診断手法を開発し,(c)については,最適解を求めるために欠かすことのできないモデルを同定するための手法を開発することができた.これらの成果は,交付申請書に記載の研究実施計画ともおおむね対応している.したがって,平成24年度以降,(b)および(c)に関する研究をさらに進め,初年度の成果と組み合わせることによって,交付申請書にある「研究の目的」を達成することができる予定である. なお,口頭発表[5]については,当初,8月のIFAC Congressでの発表を予定していたが,2月のAPCChE Congress での発表となった.多少の遅れはあったものの,必要な成果を出すことができており,研究目的の達成上は全く問題ない.
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今後の研究の推進方策 |
まず,初年度までに開発した異常の検出・診断手法をシナリオベースからモデルベースへも展開した上で,具体的な化学プロセスを用いて詳細に検討することによって,異常時の対応操作の候補集合を機能モデルから生成できるような手法を研究・開発する.次に,異常の発生時にさまざまな可能な対応操作の候補集合から望ましい対応操作を選択するためには,なんらかの判断基準が必要となるため,本研究では特に安全の問題を取り上げ,プロセス安全解析や安全計装設計などとの関連から,「運転モード」および「モード間の状態遷移」の基礎的な安全設計手法を構築する. 一方,有向グラフや制御系構築用モデルなどの構造モデルをモジュール化する仕組みを開発し、状況に応じて適切なモジュールを組み合わせて異常を診断する仕組みを研究・開発する。さらに,「運転モード」および「モード間の状態遷移」の基礎的な安全設計手法を発展させ,ディペンダブルで安全なプロセス制御システムの設計方法を構築する.また,制御系再構築アルゴリズムの一つとして,制御系構築用モデルの要素を工夫して、ゲインや無駄時間などを加味するなど定量的な情報を導入して制御系構築アルゴリズムの高性能化をはかる。最後に,開発した各種アルゴリズム間のインタフェースを完成させ,システムとして統合し,各要素アルゴリズムをダイナミックシミュレータに適用して,ディペンダブルなプロセス制御系の有効性を検証する.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度は,成果を論文として仕上げるのが少し遅れたために,論文投稿および論文校閲の費用が発生せず,結果として,119,439円を平成23年度から繰り越すこととなった.論文にするための成果は平成23年度中に出ており,現在,論文執筆中である.したがって,この論文の校閲および投稿に伴う費用を,当初の計画に追加して平成24年度に使用する計画である.
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