研究課題/領域番号 |
23560527
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
古谷 栄光 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40219118)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 麻酔制御 / 鎮静度制御 / aepEX / propofol / 薬物動態モデル / 薬力学モデル / 時変性 |
研究概要 |
本研究では,長時間の手術における麻酔薬の効果の時間的変化に対しても,常に適切な麻酔状態の維持が行える麻酔制御を実現することを目的としている.そのために,まず麻酔のうちの鎮静について,麻酔薬としてpropofolを用いた場合の体内動態および効果の麻酔継続時間による変化のモデル化,および適切な鎮静状態維持に必要な効果部位麻酔薬濃度の最小値の推定法の検討を行った.その結果,以下のことがわかった.1. 薬物濃度と効果の関係を表す薬力学モデルのみに時間的変化があると考えた場合,ゲインに当たるパラメータの変化により効果の時間的変化が表せるが,麻酔継続時間とパラメータ変化の関係のモデル化は困難である.2. 薬物の体内での移動や代謝を表す薬物動態モデルのみに時間的変化があると考えた場合,代謝速度を表すパラメータおよび脂肪などに対応する遅い末梢分画の分布容量の変化により効果の時間的変化が表せ,麻酔継続時間による変化としてモデル化できると考えられる.3. 麻酔薬propofolの効果部位麻酔薬濃度に基づいて覚醒状態と鎮静状態を判別する場合,覚醒状態を鎮静状態であるとする誤り率が最も小さいという意味で最適に判別できる薬物動態モデルパラメータはBarrのパラメータである.4. 適切な鎮静状態維持に必要な麻酔薬の最小濃度は,いったん確実に鎮静状態となる麻酔薬濃度としたあと,目標麻酔薬濃度を徐々に低下させながら,聴覚誘発電位に基づく鎮静度指標aepEXの麻酔薬濃度に対する傾きに基づいて推定可能であると考えられる.よって,この推定法を利用して鎮静状態維持に必要な最小麻酔薬濃度を推定し,常に麻酔薬濃度をそれ以上に維持することにより鎮静度制御を行うことが可能であると考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
麻酔薬propofolの薬物動態と効果の麻酔継続時間による変化のモデル化に関しては,臨床データに基づいて変化を考えるべきモデルパラメータの決定とその時間的変化のモデル化が行えた.また,鎮静状態維持に必要な麻酔薬の最小濃度の推定法に関しては,鎮静度指標aepEXに基づく最小麻酔薬濃度の推定法を構成し,シミュレーションに基づいて妥当性が確認できた.
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今後の研究の推進方策 |
まず,麻酔薬propofolに対する鎮静度変化のモデルとしてより適切なモデルを得るため,本研究で得られた時変モデルをさらに臨床データに基づいて検証する.また,麻酔継続時間による効果の変化を考慮した鎮静状態維持に必要な麻酔薬濃度に基づく鎮静度制御法を構成し,鎮静度制御が適切に行えるかどうかをシミュレーションで検討する.さらに,この鎮静度制御法を実装した検証用システムを構成し,手術時の患者のデータ測定を行いながら実際の医師の麻酔薬投与速度と比較することで制御法の有効性を検証する.鎮静度制御法の有効性を確認したあと,鎮痛度についても鎮痛度指標と鎮痛状態維持に必要な鎮痛薬remifentanilの最小濃度の推定法,およびこれらを利用した鎮痛度制御法を構成し,シミュレーションおよび手術時のデータで検証する.最後にこれらを組み合わせて,麻酔制御システムを構成する.
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次年度の研究費の使用計画 |
麻酔継続時間による変化のモデル化に必要なデータが予定より少ない症例で得られたため,研究費を繰り越すこととなったが,これはより適切な制御系を構成できる精度の高いモデルとするため,長時間の手術に絞ってさらに多くの臨床データを測定するのに使用する.また,次年度に交付を受ける研究費は,計画どおり,鎮静度制御に関する最小麻酔薬濃度の推定法と制御法の検証のためのシステムの作成と臨床データの測定,鎮痛度制御に関する最小鎮痛薬濃度の推定法と制御法の検討のための臨床データの測定,および成果発表と旅費に使用する.
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