研究課題/領域番号 |
23560527
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
古谷 栄光 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40219118)
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キーワード | 麻酔制御 / 鎮静度制御 / aepEX / propofol / 鎮痛度 / remifentanil / 薬物動態モデル / 時変性 |
研究概要 |
本研究では,長時間の手術における麻酔薬の効果の時間的変化に対しても常に適切な麻酔状態の維持が行える麻酔制御システムの開発を目的としている.本年度は,適切な鎮静度維持に必要な麻酔薬propofolの濃度の変化に注目した麻酔継続時間による体内動態変化モデルの臨床データに基づく検討とパラメータ同定,体内動態の麻酔継続時間による変化を考慮に入れたモデルに基づく鎮静度制御法の検討,また適切な鎮痛度維持に必要な鎮痛薬濃度の推定法および鎮痛度制御法の検討を行った.本研究により得られた結果は次のとおりである. 1. 麻酔継続時間による体内動態の変化は,血中の麻酔薬propofolの代謝速度を表すパラメータの時間的変化によりモデル化するのが適当である.また鎮静度維持に必要な麻酔薬濃度が一定となる代謝速度パラメータの変化は平均1時間当たり5%程度の増加である. 2. 麻酔継続時間による体内動態の変化を考慮に入れたモデルに基づいて鎮静度維持に必要な麻酔薬濃度以上に維持する制御法を適用することで,従来よりも手術中の麻酔薬のボーラス投与の可能性が低くなり,望ましい鎮静度制御が可能である. 3. 現存の単独の鎮痛度指標では,適切な鎮痛度を維持するための最小の鎮痛薬remifentanilの濃度を推定することは不可能であるが,ストレス反応としての心拍変動,血流量,筋電信号などに基づく複数の鎮痛度指標を利用することで推定できる可能性がある. 4. 鎮痛度維持のための最小鎮痛薬濃度に基づいて鎮静度と同様の手法で鎮痛度を制御することは可能であるが,麻酔薬との相互作用を考慮に入れた手法を開発する必要がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
臨床データに鎮静度維持のための最小麻酔薬濃度の推定法を適用することにより,麻酔薬propofolに対する鎮静度変化を表す時変モデルのパラメータと変化速度を決定できた.また,麻酔継続時間による変化を考慮したモデルに基づいて適切な鎮静度を維持する方法を構成し,シミュレーションで有効性が確認できた.さらに,鎮痛度についても,複数の鎮痛度指標を用いることにより,鎮痛度維持のための鎮痛薬濃度の調整法を構成した.
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今後の研究の推進方策 |
まず,麻酔継続時間による体内動態変化のモデルの妥当性および麻酔薬と鎮痛薬の相互作用のさらなる検討を行ったうえで,鎮静度と鎮痛度を同時に制御する場合の麻酔薬propofolと鎮痛薬remifentanilの相互作用を考慮した麻酔薬濃度と鎮痛薬濃度の目標値の設定方法を臨床データに基づいて検討する.また,実際の手術でよく行われているように鎮痛薬濃度を一定とすることで鎮痛度維持を行う場合を対象とした鎮静度制御システムを構成し,リアルタイムで推定した最小麻酔薬濃度の妥当性を医師の投与速度と比較して確認する.さらに,筋弛緩を施す手術について筋弛緩薬の投与データとTwitch等の筋弛緩度の測定データを取得し,筋弛緩についても適切に維持するための筋弛緩薬の最小濃度の推定方法を検討する.最後に,以上の結果を組み合わせて,鎮静度と鎮痛度,可能であれば筋弛緩度も同時に制御する麻酔制御システムを構成する.
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次年度の研究費の使用計画 |
当初予定していた鎮痛度制御法の検討のための臨床データとして,麻酔継続時間による麻酔薬の体内動態変化のモデル化のための臨床データが一部利用できたため,測定に利用する予定であった研究費を繰り越すこととなったが,これは麻酔継続時間による体内動態変化のモデルの妥当性および麻酔薬と鎮痛薬の相互作用のさらなる検討のために使用する. また,次年度に交付を受ける研究費は,計画どおり,麻酔薬と鎮痛薬の相互作用を考慮した麻酔薬濃度と鎮痛薬濃度の目標濃度の設定方法を検討するための臨床データの測定,鎮痛薬濃度を一定とした場合の鎮静度制御システムの作成,リアルタイムでの最小麻酔薬濃度推定法の妥当性の確認,筋弛緩度を適切に維持するための最小筋弛緩薬濃度の推定法の検討のための臨床データの測定,麻酔制御システムの作成,および成果発表と旅費に使用する.
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